K-NICマガジン

先輩に聞いてみた 迷えるリケジョのための起業のススメ

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2019年9月10日、テクノロジー分野の第一線で活躍する先輩起業家をゲストに迎えるトークセッション・TECH STARTUPS(※)シリーズ第6回目となる「先輩に聞いてみた 迷えるリケジョのための起業のススメ」が開催されました。
今回のテーマは「リケジョ(理系女子)」。リケジョが研究室から次の進路を決めようとする際に直面するライフワークバランスの悩みは、キャリアプランの形成に大きくかかわる深刻な問題です。そこで今回は、2名の先輩リケジョをゲストとしてお招きし、K-NICスーパーバイザー・武田泉穂氏のモデレートの下、それぞれのご経験をロールモデルの一つとしてお話いただきました。
また、「研究者」「就職」「弁理士」に次ぐ第四の選択肢「起業」についてもそれぞれの想い・考え方をお聞きしました。

※「TECH STARTUPS」とは…テクノロジー分野の第一線で活躍する先輩起業家をゲストに迎えたトークセッションシリーズ。ゲストが関わる分野のトレンドや課題、資金調達やアライアンスに至るまでの道のりなどさまざまなトピックについて、 K-NICのサポーターやスーパーバイザーなどがモデレーターとなってお話を伺います。

ゲスト

東京工業大学生命理工学部生命情報科卒。東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻博士課程修了。展示会主催会社にて産学連携フォーラムをリードした後、退職、渡米。2014年より創薬ベンチャーの技術営業として、シリコンバレーとボストンを中心に活動。そこでイノベーションエコシステムを体感する。2018年に帰国し、武田薬品工業が設立したサイエンスパーク 『湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)』 の立ち上げメンバーとして参画。
https://www.shonan-health-innovation-park.com/

 

木村 紘子氏/株式会社ファストトラックイニシアティブ マネージャー
東京大学理学部生物化学科卒業。同大学大学院理学系研究科修士課程修了。同大学大学院医学系研究科博士課程修了。博士(医学)の学位取得後、コンサルティング会社に入社し、ライフサイエンス・ヘルスケア、情報・通信領域等おいて中期経営計画策定、新規事業戦略立案、新事業領域・海外展開に向けた提携支援、M&Aアドバイザリー業務等に従事。2013年8月より株式会社ファストトラックイニシアティブ(バイオテックおよびヘルステック領域に特化したベンチャーキャピタルファンドを運営)に参画し、主にバイオ領域におけるスタートアップ企業の投資評価及び経営支援に従事。2017年3月まで東京大学大学院薬学系研究科特任助教を兼任し、学部/大学院生、研修医を対象とした医工薬連携教育プログラムのプログラム設計及びアカデミア発創薬開発に関する講義を担当。
http://www.fti-jp.com/

モデレーター

武田 泉穂氏/K-NICスーパーバイザー
https://www.k-nic.jp/wp202410/supportor/149/

小木曽さんがアイパークに勤めるまで

小木曽さん:
私の父は骨再生の研究者で、毎日楽しそうに研究している姿を幼い頃から見てきました。その影響で研究者への憧れがあり、大学院では迷いなく博士課程に進み、発生生物学の分野で研究に没頭しました。しかし卒業が近づくにつれ、徐々に私の関心は研究から、大学研究成果の社会実装へと移っていき、卒業後は産学連携に関わる仕事に就きたいと考えるようになりました。

そして博士課程修了後、東京ビックサイトなどで年間100本以上の大規模展示会を主催する会社に就職しました。とても異分野に聞こえるかもしれませんが、この会社では日本最大級のバイオ系産学連携フォーラムを開催していて、私の希望が叶い、このフォーラムをリードするポジションにつくことができました。とてもやりがいを感じたと同時に、大学側から様々な課題、ニーズも聞くことができ、より踏み込んだサポートの必要性を感じました。特に多かったニーズのひとつが、海外展開のためのサポートでした。私自身、もともと海外に興味があったこともあり、日本と海外の懸け橋になれるような人材になりたいと思うようになりました。

そこで退職後、オープンイノベーションのメッカであるシリコンバレーに渡りました。語学学校に通いながら就職活動をし、半年後に現地バイオベンチャーより技術営業のポジションを頂きました。その後約4年間、シリコンバレーやボストンを中心に、製薬会社やバイオベンチャー、大学などとお仕事をさせて頂きました。本当に貴重な4年間で、英語力がアップしただけでなく、アメリカでのネットワークが格段に広がり、また多くのイノベーションを生み出しているアメリカのエコシステムを体感することができました。

この経験を生かして、次のチャンスを探し始めた頃、ボストンの武田薬品の方より「湘南に“世界に開かれたサイエンスパーク”をオープンするので、立ち上げメンバーを探している」という情報を教えて頂きました。まさに私がやりたかった仕事ができそうだと感じ、昨年8月に転職したというのがこれまでの経緯です。

ベンチャー企業を育てる「エコシステム」

小木曽さん:
世界の革新的技術は、ホットスポットと呼ばれる場所に集積しています。このスライドは世界のエコシステムランキングを示したものですが、アメリカでは、シリコンバレーやボストン、ニューヨークなど、多くの都市が上位にランクインしています。アジア圏では北京と上海、ただ残念ながら日本には上位に入る都市はありません。そこで武田薬品は、日本に世界トップレベルのエコシステムを作るため、湘南研究所を開放する形で、2018 年4月にサイエンスパーク『湘南ヘルスイノベーションパーク(以下、アイパーク)』をオープンしました。オープンから1年半が経った現在、すでに56社*1がアイパークに入居しています。大学、バイオベンチャー、製薬会社だけでなく、研究サポート企業、機器メーカー、AI・IT企業、コンサル会社、投資会社、特許知財事務所など多様な企業が集積しています。*1 2019年9月時点 

アイパークには充実した研究設備があることに加えて、入居社間のコラボレーションを促進するため、様々なイベント開催などにも力を入れています。また、入居社の海外/国内進出サポートも積極的に行っています。たとえば「アイパークワールドツアー」では、ボストンなど世界のホットスポットで、エコシステム視察ツアーやパートナリングイベントなどを開催し、興味のある入居社は参加することができます。

木村さんがベンチャーキャピタルに勤めるまで

木村さん:私は幼い頃から生物全般、特に生き物の知覚について興味があったため、迷うことなく研究者になることを決めました。大学では嗅覚受容体の遺伝子に関する研究、博士課程からは脳の高次機能について研究をしていました。しかし、研究自体は興味深かったのですが、アカデミアで行われている基礎研究を社会に役立てるにはどうしたらいいか悩み、社会に出てビジネスを理解した上で、研究とビジネスを「繋ぐ」役割になりたいという気持ちが強くなりました。

そこで、まずはコンサル会社に就職し、様々なクライアントの新規事業の経営計画を立てることになりました。その後、やはりサイエンス、ヘルスケアの領域で、「大学の技術をどのように社会に還元し、グローバルな新産業として発展させていけるか」という課題に取り組みたいなと思い、悩んだ末にベンチャーキャピタルにたどり着いたのです。

ベンチャーキャピタルの立場とは

木村さん:日本では、ベンチャーとスタートアップは同義として理解されていますが、本来スタートアップは何らかのイノベーションを起こす企業を指します。いわゆるベンチャーキャピタルが投資したいスタートアップというのは、少人数、短期間、斬新な製品・サービス、これらの要素をもって、新しい切り口で社会問題を解決し、新しい価値を創出する企業と定義されると思います。重要なのは事業内容だけでなく、創業者としての魅力を持った人が取り組んでいるということです。
 
ベンチャーキャピタルの立ち位置は、ベンチャーの資金調達手段のひとつ。短期間で企業を成長させるには「とにかくやってみよう」の精神で資金を出してくれる人が必要です。スタートアップにとってのベンチャーキャピタルは、非常に大事なプレイヤーのひとりと理解しています。

女性が起業するのは大変?

武田さん:日本では女性起業家が少ない状況が続いていますが、海外でもそうなのでしょうか?現状と今後どうなっていくのか知りたいです。
 
小木曽さん:
アイパークにはスタートアップが20社程入居していますが、女性CEOは1人だけです。世界的に見ても女性起業家の割合は低いです。資金調達の観点で、男性起業家の方が有利ということはあったりするのでしょうか?
 
木村さん:性別で判断するということはないですが、男性がCEOを務める企業が扱う案件数としては多いです。女性起業家は医療系、食品関連など、スタートアップというより、スモールかつ堅実に経営をされている方が多い印象です。
また、男女共にお子さんがいると夜の時間帯のイベント参加は難しいことが多いですよね。フレキシブルに働けないことで、ネットワーキングの機会損失となる場合もあるかと思います。
 
 
武田さん:いわゆる「ガラスの天井*2」を感じたことはありますか?
*2当人の資質または成果に関わらず女性の一定以上の昇進を阻む障壁のこと
 
木村さん:私たちの世代はちょうど過渡期だと思うのです。性差別をしてはいけないと言われているので、研究室などで直に感じることはありませんでした。しかし、ドクターポストになると年齢が20代終盤以上になるので、企業の方には出産の可能性について言及されることもありました。
 
小木曽さん:これまでの私の大学や会社でのポジションによるのかもしれませんが、女性だからやり辛かったという経験はありません。

武田さん:参加者の方から質問が来ています。「やりたいことを会社員としてやるか起業してやるか、どちらが良いでしょうか」。
 
小木曽さん:
以前、ある大企業の女性社長とお話しさせて頂く機会がありました。なぜ社長になったのかを伺ったところ、理由はシンプルで「人生で成し遂げたいことを実現するために、一番近い方法が社長になることだったから」。会社員か起業かの選択も同様で、やりたいことの実現に向け、ベストと思われる方法を選ばれるのがよいのかなと思います。
 
木村さん:起業といってもいろいろな形がありますが、目的のためにリスクマネーを入れるスタートアップとなると、なぜ自分は起業をしてまでこの事業をやらなければならないか、目的を深掘りしていくことが特に大事になります。目的達成のための一番近い方法が起業であるという熱い想いがない場合は、別の方法を模索したり、実際に起業するまでによく考えた方がいいのではないかと思います。
 
武田さん:今後、女性起業家にとって役立つスキル、これは知っておいた方がいいというメッセージがありましたら、一言ずつお願いします。
 
小木曽さん:
女性の強みの一つは、コミュニケーション力、ネットワーキング力だと感じていて、ぜひ多くの人を惹きつけ、巻き込んでいってほしいと思います。
 
木村さん:男女問わずいかに人を巻き込んでいけるかは大事ですよね。「この人と一緒にやると何か達成できるような気がする」と思わせることは、小木曽さんもおっしゃるネットワーキング力だと思います。

女性起業家が影響を与える社会

まだまだ数の少ない女性起業家。しかし、マイノリティゆえに、社会に与える影響は男性起業家に比べて強い場合もあるのではないかという話も出ました。起業家を取り巻くエコシステムの充実に合わせ、女性がより働きやすくなるような社会の実現が、女性起業家創出の後押しに直結していると改めて実感できるトークセッションでした。
 
K-NICでは、引き続き起業や経営に関する役立つ知識をイベントにて、みなさまにお伝えしていきます。
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