K-NICマガジン

ゲームだけじゃない!VRビジネスの現状と未来

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2019年7月10日、テクノロジー分野の第一線で活躍する先輩起業家をゲストに迎えるトークセッション・TECH STARTUPS(※)シリーズ第2回目となる「ゲームだけじゃない!VRビジネスの現状と未来」が開催されました。
今回のテーマは「VR」。ゲームやシミュレーションなどのエンタメ領域での認知度は定着しつつあるVR、実はビジネスシーンでの活用も進んでいます。今回は、株式会社Synamon代表の武樋恒氏をお招きし、K-NICスーパーバイザー・岡島康憲氏のモデレートの下、VRソリューションにまつわる現状と課題についてトークセッションが行われました。
 
※「TECH STARTUPS」とは…テクノロジー分野の第一線で活躍する先輩起業家をゲストに迎えたトークセッションシリーズ。ゲストが関わる分野のトレンドや課題、資金調達やアライアンスに至るまでの道のりなどさまざまなトピックについて、 K-NICのサポーターやスーパーバイザーなどがモデレーターとなってお話を伺います。

ゲスト

武樋 恒氏/株式会社Synamon 代表取締役
1987年新潟県長岡出身。2010年に明治大学経営学部卒業後、大手メーカー系SIer営業、ベンチャー企業でのWebマーケコンサル、個人での海外ビジネス立ち上げ、コミュニケーションロボット開発などを経験。2016年にVR領域で起業、株式会社Synamonを設立し代表就任。
https://synamon.jp/

モデレーター

岡島 康憲氏/K-NICスーパーバイザー
https://www.k-nic.jp/wp202410/supportor/47/

Synamonってどんな会社?

トークセッションの前に、株式会社Synamonについて、武樋恒さんにご説明いただきました。
 
武樋さん:株式会社Synamon は、VRやAIのようなイノベーションと呼ばれている技術が当たり前になる世界を目指して、その一つの軸としてVR技術を活用しています。
2016年8月に立ち上げ、メンバーは合わせて20名ちょっと。ようやく丸3年が経とうとしている会社です。複数人が同じVR空間で活動するためのシステム「NEUTRANS」を開発中です。一人ひとりがアバターを持ち、3D空間で活動できるよう実装しています。ホワイトボードを共有したり、空間上に大きくイメージピクチャを表示したり、現実ではできないような打ち合わせを可能にする空間を提供しています。
弊社としては、VRは今までにない次世代のコミュニケーションツールの一つだと考えています。ここで産業の歴史を振り返ると、第三次産業革命で出てきたGPT(汎用目的技術)は、すべてコミュニケーションに応用されています。鉄道で人と人とをつなぎ合わせたり、電気と電話で遠くの人とすぐにコミュニケーションが取れるようになったり。ネットもまさにそうですね。そして第四次産業革命は、CPS(サイバーフィジカルシステム)、生産技術のデジタル化・バーチャル化を行う技術が肝と呼ばれています。これは、IoT技術やAI技術などの機械設備とコミュニケーション、つまり協調する世界を目指しています。ここでもまたコミュニケーションという言葉が出てきます。全ての産業革命は「コミュニケーション」を軸にしているのではないかと考えています。インターネットやスマートフォンの次に出てくるコミュニケーションツールとして、VR・ARがあるといいのではないでしょうか。

ビジネス現場でのVRへのニーズって?

いよいよ始まったトークセッション。まず最初に岡島さんから提示されたテーマは「ビジネス現場でのVRへのニーズ」について。
 
岡島さん:まずはニーズですよね。いまだに思うのですが、VR使いたがっている人は増えているのですかね?
 
武樋さん:そうですね。そういう意味だと増えてきていると思います。さらに言うと「なんか使ってみたい」ではなく「こういう形でこう使えると思うのだけどどうですかね」という踏み込んだユースケースとして質問をいただくことが増えていて、理解度が進んでいると感じています。
 
岡島さん:印象的にはVRって未だに「目新しいおもしろ技術」扱いをされていると思っていて、とりあえずVRやディープラーニングを試してみるという人もいる印象ですが、最近では明確な意図をもって使われることが増えてきたということでしょうか?
 
武樋さん:前者の方もまだいらっしゃいますし増えていますが、さらに後者の方も出てきたという認識です。
 
岡島さん:ニーズは確実に増えていると思うのですが、面白半分はありつつもVRによって自分たちの仕事の効率や生産性が上がると考え、VRを導入する人が増えているのですか?
 
武樋さん:そうですね。とはいえ改善というよりも、導入でちょっとVRを試してみて、もっと良いプロダクトが必要だということに気づく人が増えています。動画(映像)のVRと3DCG(空間を作る)のVRは、車で言うところの「軽自動車」と「F1」みたいなもので、発想や目的が全然違うものなんです。映像のVRは手軽に数万円でできちゃうので、もっとちゃんとしたものを作らなきゃいけないよね、となった時に弊社の事例を見ていただくことが増えてきています。現在、一般に使われていると思って聞いていた方には申し訳ないのですが、まだ一般活用の手前というか、どう使っていいかわからないという方が多く、そこに対してまずは入れてみて使ってみていただくというフェーズに来ています。

B2B向けVRビジネスを進めるための営業活動&人材獲得

岡島さん:営業活動が大変そうだなと思っていて。使ってみてもらわないとわからないので…。どういう形で営業活動を行なっているのですか?
 
武樋さん:現状、VR×ビジネス×コミュニケーションをやっている会社は少なく、日本だと今やっているのは弊社くらいという状況です。なので、ほぼインバウンド100%の状況になっています。VR導入をやる必要があると考えた会社や、自分たちでやってみてもう少しちゃんとしたものを作らなくてはと感じた会社から問い合わせを頂いています。とはいえそのまますぐに作るわけにはいかず、まずはそこから(製品化に)どう意義があるのか・それをつかってどうするのかの道筋を立てていきます。VRは手段なので、それを目的にしてしまったら意味がありません。そう考えている会社には「それは違います」ということをお伝えして、活用することで会社をどうしていきたいかをディスカッションします。
 
岡島さん:今のお話を聞いていると、VRを使うことでどう変わっていくのかをクライアントがイメージできることが重要だと思っていて、いわゆる啓蒙活動が大事だと思いました。とはいえ、Synamonとして企業と1対1で話をしていくにはリソースに限界がありますよね。例えばメディアを持って発信するとか、展示会に赴き広く知ってもらうとか、何か知ってもらうための動きはありますか?
 
武樋さん:そうですね。そこも悩みながら動いているのですが、下手に伝わってしまうことを避けるために、体験いただける方を前提として営業を行なっています。質を上げながら、ブランドを保ちながら営業をしています。
 
岡島さん:人材に関しては、現状はどうですか?
 
武樋さん:VR業界に関して難しいことを言うと、ビジネスVRをやりたい人が少ないんですよね。VRをやりたい人は、エンタメやりたい方が多いです。技術の革新はゲームから始まると言いますし…。ビジネスに力を入れていこうと考えてくれる人が少ないです。今いる社員の方の前職もいろいろです。VRをやっている会社が無いので、ビジネス開発の方やゲーム系の方、インターンからそのまま新卒採用で入ってもらった方もいます。3Dをやっていた人も少ないですが、Unityのようなゲームエンジンを触っていた方は多いですね。自分で試してみて、そこからVRに賭けたいとこちらに来た方もいます。しかし、正直ちょっと触ってみたレベルだと、うちのレベルでは厳しいです。余裕があればどんどん人は取りたいのですが、会社のフェーズ的に教育に割けるリソースが現状ではあまり無いのです。
 
岡島さん:一人である程度戦える人でないと、採用するのは難しいのですね。

B2B向けVRビジネスにおける技術的な課題

岡島さん:技術の話をしようかと思うのですが、Synamonさんの持っているソリューションで他のスタートアップと比べて優れている部分があったら、教えていただきたいです。
 
武樋さん:正直、究極に技術的なところに関してはそんなにないと思います。ないからこそ特徴的な優位性がありまして、何かというと「作り込み」です。使い勝手に関する作り込みについては、「同じようなもの」を作れる会社はあっても「同じもの」を作れる会社は無いかと思います。また、取り組み中の部分なのですが、ハイエンドのものをハイエンドに提供していくことに取り組んでいます。弊社は大企業様と取引させていただいており、そういう案件ではセキュリティが厳しいなどの特有の問題があります。小さい企業では、それに対してリソースを割けず対応できないというところも少なくありません。最高のものを出すからこそ、その辺もちゃんと対応できるという良さがあります。
 
岡島さん:売り込む時のコツというか、勝ちパターンはありますか?
 
武樋さん:愚直に“圧倒的一番”を取っていくしか無いと思います。コンペになったら、一番になれる自信があります。一番いいものを使いたいと思ったら、うちに来るしかないと思っていただきたいです。
 
岡島さん:ひとつの見方として、世の中はAR中心になってきているという発言をする方もいると思います。その中での、VRとの立ち位置についてはどのように考えていますか?
 
武樋さん:VRとARの関係性を考える上で、なぜ弊社がVRを作っているかというと、VRでARは作れるんですよ。逆にARでVRは作れないのです。
分かりづらいかと思うので説明しますと、VRの世界では、ARという技術が発達した世界のシミュレーションを作ることができます。ARの世界ではVRのシミュレーションを作ることができません。ARは現実に依存するので、現実と違う世界は作れないのです。この前提を踏まえると、VRもARも個別の技術は違いますがやりたいことは空間の構築とアウトプットであり、あまり変わらないということがわかります。そういった理由で、弊社はVRを選んでいます。

信念でVR×ビジネス市場を切り開いていく

武樋さんのトークからは、市場の可能性と自社の力を信じて、クライアントとコミュニケーションをとりながら市場価値を創り上げていく過程を覗き見ることができました。VR×ビジネス×コミュニケーションの市場が、今後の社会に提供する価値を楽しみにしながら、K-NICでも今後の動向を追っていきたいと思います。
 
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