
【イベントレポート】Deep Techスタートアップエコシステム川崎に迫る!~成功企業のリアルボイスを交えて~
川崎市は、シードからアーリー・ミドルステージまで一大スタートアップエコシステムを形成し、世界で戦えるディープテックスタートアップを着実に輩出しています。 今回は、2024年11月28日(木)に開催したイベント「~成功企業のリアルボイスを交えて~ Deep Techスタートアップエコシステム川崎に迫る!」の内容をお届けします。
イベント前半は、川崎市、K-NIC、KBICによる各支援体制の紹介。そして後半は、川崎で事業成長したスタートアップ2社が登壇し、事業成長の経緯や市のサポート活用についてお話しいただきました。
川崎市のスタートアップ支援 ~ 国内外に開かれたディープテック拠点都市へ
川崎市には、ライフサイエンス、環境・エネルギー、AI/IoTなどのディープテック領域の大企業やベンチャー企業を含む550以上の研究開発施設が集積しています。市では研究開発型スタートアップの支援に力を入れており、成長段階に応じたシームレスな支援を提供しています。
その支援の大きな特徴は、対象を市外にも開いていることです。支援実績は北海道から九州・沖縄まで全国各地の大学・研究機関や企業、そして海外にまで広がっています。

また、羽田空港に近く、国際戦略総合特区にも指定されているキングスカイフロントは、規制緩和や財政支援、税制優遇などを活用しながら、 ライフサイエンス分野を中心に80の企業や研究所が集積し、また、 中核施設のナノ医療イノベーションセンター(iCONM)には、米国BioLabsと連携したインキュベーション機能も備わっています。
さらに、幸区の新川崎地区では、慶應義塾大学と連携して、量子コンピューティング技術を核とした機能更新が進めているほか、川崎区の南渡田地区では、革新的なマテリアルを生み出す新たな研究開発拠点の整備も進めています。
ワンストップ起業支援拠点“K-NIC” ~ハンズオンプログラムと50名以上の専門家支援
K-NICは、川崎市とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)、公益財団法人川崎市産業振興財団が共同で設置する公的な起業支援拠点です。起業準備者やスタートアップに対して、個別相談会、イベント、企業成長プログラム、コワーキングスペースを無料で提供しています。
個別相談は、資金調達やビジネスプラン構築、商品企画、知財戦略のほか、NEDOの助成金準備に関するものなど、起業に必要な多様な分野をカバーし、50名以上の専門家が対応。ピッチイベント、マッチングイベント、ワークショップなど、年間約100回のイベントが開催されています。
また、企業成長プログラム「K-NIC Startup Hands-on Program」は、NEP、DTSU等の助成金獲得やVC資金調達に成功する事例を多く輩出し、K-NICの看板プログラムとなっています。

日本最大級の複合型インキュベーションセンター “KBIC”
かわさき新産業創造センター(以下、KBIC)は、グローバル企業・大学の研究機関、研究開発型スタートアップが集積する新川崎地区の中に位置するインキュベーション支援施設です。IoT・コンピューティング/AI/モビリティなどの各先端分野で、グローバル企業を中心にスタートアップが集まるディープテッククラスターが形成されています。
KBICでは、創業間もないベンチャー企業や、新たな事業分野への進出を目指す企業を支援。15〜200m²の様々なタイプの居室が用意されており、クリーンルームやCAD/CAM室などの共用設備も利用可能。また、インキュベーションマネージャーや技術コーディネーターによる成長支援も提供されています。入居企業はKBICを卒業後も、新川崎地区ネットワーク協議会等を通じて、大手企業との連携を図る事ができます。

川崎市のサポートをフル活用!事業成長を加速させたスタートアップ
続いてイベント後半では、川崎市のサポートを受けて起業したスタートアップ2社が登壇しました。
ハレーションを消す世界唯一の光学技術「 PHASERAY® フェーズレイ」-株式会社シンクロア
シンクロア株式会社(以下、シンクロア社)は、品質管理や外観検査用の照明装置の開発・製造・販売を手がけています。同社の技術の肝は「フェーズレイ」という、あらゆるハレーションを消してしまう世界唯一の光学技術です。特許取得済みのこの技術は、様々な業界の「見える化」基準に革命を起こす可能性を秘めています。
医療業界からスピンアウトした代表取締役の綾部氏たちは、がんセンターの医師の一言をきっかけに、7年の歳月をかけてハレーションがない鮮明な画像を取得する技術を開発。現在、半導体、自動車、製薬業界での導入が進んでおり、今後の海外展開も視野に入れています。
「川崎で、歯車が噛み合い始めた」~きっかけは、かわさき起業家オーディション
そんなシンクロア社ですが、実は川崎へ移ってくる前は、会社存続の危機に瀕していたと明かしてくださいました。設立以来、東京で事業を進めていた同社ですが、多大な初期投資を必要とする先進技術への理解が得難く、大企業との協業にトライしては挫折する、という日の目を見ない時期があったといいます。
転機が訪れたのは2022年、「かわさき起業家オーディション」での大賞受賞(他9賞)。以降、川崎市内でさまざまなバックアップを受け、資金調達やオフィス移転のほか、セミナー受講やワンデーコンサル、イベント登壇など、支援サービスをフル活用しました。

2024年までには日経スタアトピッチコンテスト、EY Winning Women 2024などでの受賞のほか、内田・鮫島法律事務所との顧問弁護士契約やJETROの海外進出支援など専門家との強力なタイアップも得て、現在、海外進出を間近に大きく事業が加速しています。
フェロトーシス誘導性抗がん剤で、治療の第一選択肢を増やす -株式会社FerroptoCure-
株式会社FerroptoCureは、フェロトーシスを活用した抗がん剤の開発を行う、慶應大学発ベンチャー。主にトリプルネガティブ乳がんを対象とした治療薬の開発に取り組んでいます。同社の技術は、がん細胞の抗酸化システム(バリア)を打ち壊すことで、がん細胞を死滅させるフェロトーシスを誘導。この世界初のメカニズムを用いた抗がん剤は、マウス実験では腫瘍を80%以上縮小させることに成功しており、乳がんだけでなく大腸がん、肺がんなど様々なタイプのがんで効果を出しています。

2024年、日本で世界初の臨床試験を開始。今後、海外での治験も予定されています。
3カ月のプログラムを経て会社設立、国際的なシェアラボ活用で世界へ
同社は2022年1月以来、さまざまな面で川崎市のサポートを活用してきました。
起業前には経営のノウハウが全くなかったというメンバーは、まずK-NICのハンズオンプログラムに参加し、起業の基礎を一から学びます。3カ月間でピッチデッキの作成に始まり、事業計画や資本政策を次々と策定。「まさにここからFerroptoCureが始まった」といいます。
そして同年5月、会社を設立。基礎を固めた同社は、メドテックグランプリKOBEやForbes ACADEMIA ENTREPRENEUR SUMMIT最優秀賞など、さまざまなアクセラレーター・プログラムに採択され、受賞を果たします。ハンズオンプログラムを通じて構築した専門家や投資家とのネットワークも活用し、2023年5月にはシードラウンドで5.7億円の資金調達を達成。その後も積極的にアクセラレーター・プログラムに参加。事業フェーズが進んだ段階で受けた「Kawasaki Deep Tech Accelerator」では、技術のプレゼンテーション方法や海外展開のノウハウを学ぶと同時に、ディープなメンタリングにより事業をさらに深化させました。
現在はキングスカイフロントのiCONMに入居し、バイオラボと連携。国際的なサポートや研究者同士の交流、研究スペースの提供を受けています。通常、一からラボを立ち上げるには数千万円のコストがかかるところ、シェアラボやシェアオフィスを活用することで、初期費用を抑えつつスムーズに事業を開始できていると教えてくださいました。
スタートアップの挑戦を支える「川崎エコシステム」 ~ ディープテックの未来へ
川崎市は、研究開発型企業が世界で戦うためのエコシステムを整備し続けています。
テック系スタートアップの創業を考えている方、また創業後に課題を抱えている方は、ぜひ一度、川崎市の支援制度を活用してみてはいかがでしょう?
K-NICへのご相談・イベント参加をお待ちしています!
K-NICは、川崎市のスタートアップ支援の第一窓口として、起業に関する様々な相談に対応しています。まずは、K-NICのホームページをチェックして、お気軽にご相談ください。
< 登壇者 >
川崎市 経済労働局 イノベーション推進部 創業担当 / 諏佐達哉 氏
KBIC インキュベーションマネージャー((公財)川崎市産業振興財団)/ 林亮宏 氏
K-NIC 運営事務局 コミュニケーター / 岸智也 氏
シンクロア株式会社 代表取締役 綾部華織 氏
キャノンメディカルシステムズ(旧東芝メディカルシステムズ)で超音波装置マーケテイング・テクニカルライターとして従事。その後2011年にシンクロア株式会社を設立。
数多くの医療機器の開発受託を経て、特殊位相偏光技術を開発。特許7件取得。2022年かわさき起業家オーディションにて起業家大賞受賞、また2024年3月には「日経スタアトピッチ」コンテストで、「スタートアップ部門賞」を受賞。2024年10月にEY WINNING WOMEN 2024にてファイナリストに選出される。
株式会社 FerroptoCure 代表取締役 大槻雄士 氏
2012年北海道大学医学部卒業。その後、外科医として診療に取り組む中で新しいがん治療開発の必要性を感じ、研究者の道へ進む。以降、慶應義塾大学医学部 先端医科学研究所 遺伝子制御研究部門にて、これまでにないフェロトーシスのメカニズムを用いた抗がん剤シーズの研究に従事。その成果を元に、2022年に株式会社FerroptoCureを立ち上げ、新規抗がん剤の臨床応用に取り組む。医師・博士(医学)