K-NICマガジン

細胞を「はかる技術」と「はぐくむ技術」でヘルスケアの未来を明るくしたい、二人の創業者の思い

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川崎市にある起業家支援拠点&コワーキングスペース・K-NICを利用しながら活躍されている起業家に、
起業までの軌跡やK-NICの便利な活用方法などをインタビューするシリーズ。

今回は、ベンチャーキャピタルから資金調達を実施し、NEDO 研究開発型ベンチャー支援事業(STS事業)にも採択された注目のバイオテックスタートアップ、株式会社ナレッジパレットの創業者 福田雅和さんと團野宏樹さんにインタビュー!

團野さんと福田さんは、大学院を同じ研究室の同期として卒業。
その後、福田さんは和光純薬工業株式会社にて、團野さんは理化学研究所の研究員としてそれぞれのキャリアに進み、2018年に株式会社ナレッジパレットを共同創業。

それぞれの知見を合わせることで再生医療の未来を明るくすると語るお二人の起業にまつわるエピソードをうかがいました。

起業家プロフィール

株式会社ナレッジパレット
URL:https://www.knowledge-palette.com/

福田 雅和氏(代表取締役 Co-CEO/博士(理学))
2009年東京大学大学院を修了後、和光純薬工業株式会社にて、幹細胞の培養関連製品の研究開発に従事し、複数製品を上市。製品設計、製造工程や品質試験の立案に実務経験を有する。国の進めるAMED再生医療事業に複数関わる。2018年に当社を共同創業。博士 (理学)。

團野 宏樹氏(代表取締役 Co-CEO/博士(学術))
2009年東京大学大学院を修了後、理化学研究所にて、バイオテクノロジーとAI・データサイエンスの融合研究に従事。国の進めるAMED再生医療事業にて、再生医療用細胞の高精度な遺伝子解析技術を開発。国内バイオベンチャーR&D部門ヘッドを経て、2018年に当社を共同創業。博士 (学術)。

様々なタイミングが重なり二人で起業

――起業を決めたきっかけを教えてください
團野さん:タイミングが大きいと感じます。事業領域の盛り上がりや、僕らの持っていた技術の旬、そして人との出会い。

福田さん:私たちは大学院時代、同じ研究室の同期として寝食を共にしながらそれぞれの研究を行う、いわゆる親友だったんです。博士号を取得してからは別々のキャリアを進み、再生医療・創薬という分野に関わっていて。それぞれの分野にまだまだ超えなければならない壁があることを感じていたタイミングで、互いの技術を組み合わせることを考えたとき、社会をより良くするものとして実用化する明るい未来が見えたんです。

團野さん:良い出会いもありました。ヘルスケア分野で事業を起こされた方々にお会いする機会に恵まれ、やってみなよと私たちの背中を押していただいたおかげで、肩肘張らずに「やってみよう」という気持ちになれました。
「いつか二人で何かやりたいね」という話は起業するずっと前から、プライベートで会った際などにしていました。その中に、起業というイメージもありましたが、その時期が一年後か、数年後か、あるいはもっと先か。そういったことまでは全く決まっていませんでした。いろいろなタイミングが重なって、私たちは1年前のタイミングで起業をしたんです。

――二人とも代表取締役の肩書きを持つ中で、役割分担はありますか?

團野さん:私は、アカデミアの研究機関でコンピューター解析・AIを使ったゲノム科学・バイオテクノロジーの研究をしていました。福田は再生医療用の細胞培養の環境を整える技術の研究開発を行なっており、細胞を製品として仕上げる事業に携わっていました。AIを用いて遺伝子の計測を行っていた私と、再生医療の現場で実際に必要とされる製品開発をしていた福田。互いのキャリアが違うので、それぞれの専門分野で研究開発の役割分担をしています。簡単にいうと、情報系と実験系ということですね。

福田さん:代表取締役が二人いるというのは珍しいため、クライアントや投資家の方々と関わる中ではポジティブに捉えられることもあれば、混乱させてしまうこともありますね。ポジティブな意見としては、会社の事業に心から賛同してくれる人が最初の段階から二人存在することが素晴らしいことだとおっしゃってくださる方がいました。

――経営をする中で印象的なエピソードはありますか?
團野さん:初期の運転資金を調達する際に、親戚の方々に資金援助をお願いしたところ皆さんが快くご協力してくださったことです。バイオテクノロジー分野は専門性が高く、事業内容や今後成長できるか判断し辛い中で、私たちの立ち上げた事業が進むことを楽しみに思ってくれたことが嬉しかったです。プロの投資家の方からのご出資や助成金の獲得などももちろんとてもありがたかったのですが、身近な人たちからの根拠のない応援は何にもかえがたいと感じています。

再生医療の課題、真の意味の「製品化」を実現したい!

――再生医療分野の面白いポイントはどんなところですか?
團野さん:現在の医療技術ではまだ治せない病気について、再生医療で治せるようになることが期待されているところです。再生医療はまだできないことも多い新しい分野です。私たちが新たなテクノロジーを導入して研究開発を行い、より早いスピードで再生医療が進歩することで、安価な再生医療の製品がたくさん生まれ、みなさんが病気になった際に薬と再生医療どちらかを選択できるのが当たり前というようなレベルで、再生医療が身近になるといいなと思っています。

――再生医療分野の今抱えている課題はありますか?
福田さん:再生医療の製品化です。再生医療用の細胞医薬品は細胞が主成分ですが、工業製品のように成分表示を明記できる状態になるのが理想的です。現状では、生産した細胞の詳細を表記することは難しく、工業製品と同じレベルには達していません。抗体やワクチンのような現在広く使われている医薬品についても、歴史を遡れば今の再生医療のような段階がありました。人類が努力して技術を進歩させることで、現代の医療レベルまで引き上げたという歴史があるのです。「再生医療の製品化に悩む」という問題は、今ちょうど再生医療の技術が進歩したことでぶつかっている壁であり、そこに私たちの技術を使うことで、皆さんが再生医療を選ぶことに安心安全を感じられるようなレベルへ近づくと考えています。それを思いついた時、結構ワクワクしたんですよね。世界を少し前に進められると感じたんです。
実は、企業が再生医療等製品を作ると現状では収益が出しにくい。細胞の培養がうまくいったかどうかを判定する指標が不十分であるため、現在の製造工程が適切なものであるかを判断できず、製造工程の改善もできない。たとえ製造工程に採算性の合わない部分があっても工程から取り除いたり、改良することができず残ってしまうため、効率が悪く製造原価が高くなってしまいます。

團野さん:再生医療は今まで治らなかった病気を治すことが期待できる反面、生きた細胞を使うのでコントロールが難しいということが問題です。目視だけでは良い細胞か悪い細胞かを見分けることができないので、より深い細胞情報を使ってそれを判定する技術と、その情報を使って思い通りに細胞を育てる技術が必要です。私たちの技術のひとつに「細胞をはかる」があります。各工程で、細胞が今どういう状態か判断するための品質管理の項目を立てましょう、ということですね。製造工程の段階の各工程で細胞をはかることで、製造工程をブラッシュアップすることができるのです。
我々の、細胞を「はかる技術」と「はぐくむ技術」をしっかり実用化していくことで、社会に新しい価値を生むことができると考えています。

K-NICとの繋がり

――K-NICを知ったきっかけは何でしたか?
團野さん:知り合いの方の紹介ですね。 ちょうど川崎市にオフィスを構えようと県や市の方に相談をしていた際に、K-NICのイベントを紹介していただきました。イベント参加したその場で会員登録をし、翌日からコワーキングを使わせていただきました。

福田さん:それからは、オフィスワークや社内外の打ち合わせをするスペースとして活用させていただいたり、イベントに参加したり、登壇の機会をいただいたり。イベントをコアに人が集まるので、ネットワーキングにも活用しています。川崎駅前で立地も良く、打ち合わせをする際にも集まりやすいです。仕事や面談の場所の選択肢が増えるということは、多くの方にとってありがたいことだと思います。

――今後K-NICに期待することはありますか?
團野さん:初めての起業だと、自分たちの進捗状況を客観的に判断するのが難しいんですよね。例えば、研究開発は進んでるけど資金調達やチームビルディングは進んでないね、とか。そのときに、起業経験のある方が日頃から近くにいると、そういったことに気がつく機会が得られやすいんじゃないかと思うのです。K-NICには、そういう場所になってほしいなと。アクセラレーションのような、知見のある方と気軽にコミュニケーションを取りつつ話をできるような機会があると嬉しいです。

――最後に、ナレッジパレットさんの今後のビジョンを教えてください!
團野さん:自社のビジョン「たくさんの笑顔をつくる ヘルスケアを明るくする」に一直線に邁進することですね。

福田さん:そのために、私たちの事業に賛同して事業を行う仲間を増やし加速していくことが今、必要だと考えています。自分たちだけ、という考えにはとらわれないようにし、他の企業やアカデミアと協力して、ビジョンを実現していきたいと思います!