
食料安全保障と気候変動に挑む!次世代タンパク質ウキクサがつくる食の未来
川崎市にあるコワーキングスペース&起業支援施設「Kawasaki-NEDO INNOVATION CENTER(K-NIC)」で毎年2回開催している「K-NIC Startup Hands on Program(スタートアップハンズオンプログラム)」。
ディープテック領域で具体的な技術シーズがあり、研究開発要素のある事業で起業を目指す方を対象にした本プログラムでは、NEDOのスタートアップ支援事業(NEP、STS等)での採択や資金調達を視野に入れた伴走支援を行っています。
今回は、ウキクサの一種である「ウォルフィア」の量産を通じて地球温暖化対策に挑むFloatmeal株式会社 代表取締役CEOの北村さんにインタビュー。
北海道大学水産学部在学時に起業し、現在は大学院に在籍中。国際的なバックグラウンドを活かして仲間と共に事業を進める北村さんに、起業の経緯やウォルフィアの可能性、今後の展望についてお聞きしました。
起業家プロフィール
北村 もあな(キタムラ モアナ)氏
Floatmeal株式会社 代表取締役 CEO

ニュージーランドで日本人の両親のもとに生まれ、オーストラリアで育ちました。北海道大学で気候変動に関する研 究に取り組む中で、「将来の食料を持続可能に確保することが、地球環境の保全につながる」と考えるようになり、 次世代の食資源であるウキクサの量産技術開発と販売に取り組んでいます。大学では北極海における環境の変 化が海洋生態系にどう影響するかについて研究をしています。実習では北極航海に1ヶ月乗船し、気候変動が及 ぼす影響を目の当たりにしました。私は温暖化について学びたい、解決したいと思っていますが、誰も体験したことの ない未来について、理解し、解決することの壮大さと難しさに気付かされました。そんなモヤモヤを抱えていたとき、大学内で「ウキクサ」の研究を行なっている研究室のメンバーに出会ったのが、Floatmeal設立のきっかけです。
【実績一部抜粋】
KPMG Dream賞 (KPMG Global Tech Innovator Competition In Japan 2024)/ 第9回 NoMaps Dream Pitch 2024 最優秀賞 & 野村證券札幌支店賞 / 週刊東洋経済「すごいベン チャー100」2024年選出
会社紹介
「持続可能な生産で、食料安全保障と気候変動に挑む」というビジョンを掲げ、高たんぱく質で栄養価の高い「ウォルフィア」(ウキクサの一種)の持続可能な安定生産技術の開発と生産を行う国内で唯一の企業です。微生物を用いた独自の技術により、安定した大量生産技術の確立を目指しています。ウォルフィアは、食品や機能性食品の原材料としての活用だけでなく、化粧品、環境浄化、エネルギー源など様々な場面で活用が可能になります。
ウェブサイト:https://ja.floatmeal.com
※現在、スタッフ採用も積極的に行っています。
環境負荷の低い、高タンパク源「ウォルフィア」
現在のタンパク質生産は、地球温暖化の主要な原因の一つとなっています。このまま地球温暖化が進行すれば、私たち人類をはじめ数多くの生物が地球上に住めなくなる恐れがあります。一方で、タンパク質は人間にとって必要不可欠な栄養素です。そこで私たちは、環境負荷の低いタンパク質生産を実現する一つの方法として、ウキクサの一種である「ウォルフィア」という植物に着目しました。
ウォルフィアは牛肉や大豆、卵と比べてタンパク質含有量が40%と高く、その生産に当たっては、大豆と比べ、水使用量を230分の1、土地利用を63分の1に削減できます。また短期間で大量に繁殖する特性から、タンパク質1kg当たりの生産コストが他の農産物や食品と比べ極めて低く、低コストで大量生産が可能です。Floatmeal社は現在、微生物を用いた独自の技術により、安定した大量生産技術の確立を目指しています。
起業の経緯
大学2年の時に、同じく北海道大学で以前からウキクサの研究に従事していたサジャッドと、あるイベントで出会ったのがきっかけです。ちょうど3年生に進級する前の春休みで、新たに取り組むテーマを探していた時期でした。以前より気候変動の影響の深刻さについて危機感を抱き、解決策を模索したいと思いを抱きながらも、問題の大きさに対して何から取り組めば良いのかとアクションを起こせずにいました。
そんな時にウォルフィアを知って興味を持ち、春休みのテーマとして色々と調べているうちに理解が深まり、面白くなってきて、活動を開始。当初は学生団体として始めましたが、その後、事業として取り組みたいと思うようになり、2023年、サジャッドがCTO、私がCEOという形で起業に至りました。
元々、ウォルフィアの栄養価が高いことは知られていたのですが、量産に課題がありました。単一栽培が難しいのです。例えば、花を大量に育てようと思っても、周りに雑草などの草花が生えてくるように、ウォルフィアの周りに藻類が繁殖してしまうのです。管理が非常に難しい。しかし、私たちは微生物の力を使って藻類を削減することに成功し、衛生的に大量生産することが可能になりました。現在は、安定した量産を見据えて研究開発を進めながら、生食や粉末化などの製品化に取り組んでいます。試食イベントでも好評を得ており、今後、食品としての認知を上げていきたいと考えています。
片っ端からなんでも相談した、ハンズオンプログラム
私たちは事業を進めていく中で、常日頃多種多様なプログラムに応募しています。その中で2024年、K-NICのハンズオンプログラムに採択され、参加しました。メンターは尾崎SVと大川氏でした。実は、その前に中小機構主催のアクセラレーションプログラム「FASTAR」で尾崎さんに1年間、メンターを担当していただいていたので、こちらのプログラムでは再びお世話になることになりました。
プログラム期間中はNEP(NEDO Entrepreneurs Program)採択を目標としていました。結果としてまだ採択に至っていませんが、期間中のメンタリングでは、その時々必要な事業の判断について、とにかく片っ端から相談していました。テーマの一つは特許で、特許戦略や申請について様々なアドバイスを受けました。
メンタリングの中で特に有益だったのは、私たちの社内で意見が割れた際に、メンターの方が中立的な立場で考えを整理してくれたことです。CTOのサジャッドと私では意見が真逆のことがよくあるのですが、間に入ってもらうことで、お互いの話をしっかり聞ける場にもなりました。
また、メンターの方とのやり取りで印象的だったのは、第三者とのミーティングに同席していただいた際に、「うちとしては○○ですよね」と、私たち(Floatmeal社)と同じサイドに立って話してくださっていたことです。アドバイザーという外からの立場を超えて、中で一緒に頑張っている仲間のような感覚になり、とても嬉しかったのを覚えています。プログラム終了後もメンターとのつながりは続き、食品メーカーの紹介など多くのサポートを受けています。3ヶ月というプログラム期間では足りないほど、長くお世話になりたいなと思いました。
今後の展望
まずは、消費者にとってハマる商品を作りたいですね。ウキクサが必要とされるようなものを作りたい。誰もが知るような商品にしつつ、それが環境問題にも繋がる、というような形を作り上げていきたいです。
長期的な展望としては、私たちは今、日本発祥の技術を使って生産を行っているので、その技術を世界に広めていきたいです。また海外でもウォルフィアの量産をすることによって、ウォルフィアを世界中で当たり前の食の選択肢にしていきたいと考えています。そのほか、食用とは別の用途として、例えば量産化の際にカーボンクレジットの創出に繋げることや、排水処理の方法として浮草を使っていくなど、温暖化対策の選択肢として多様な可能性を探っています。
やりたいことは日々、少しずつ変わっていますが、大きな軸はぶれず、一貫して、環境負荷の低いウォルフィアという植物を通して、温暖化対策という地球規模の課題に取り組むことにやりがいを感じています。