K-NICマガジン

エネルギー問題の解決策となる新素材を生み出す!半導体グレードのダイヤモンド基板製造への熱意と挑戦

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川崎市にあるコワーキングスペース&起業支援施設「Kawasaki-NEDO INNOVATION CENTER(K-NIC)」で毎年2回開催している「K-NIC Startup Hands on Program(スタートアップハンズオンプログラム)」。

ディープテック領域で具体的な技術シーズがあり、研究開発要素のある事業で起業を目指す方を対象にした本プログラムでは、NEDOのスタートアップ支援事業(NEP、STS等)での採択や資金調達に成功した起業家を多数輩出しています。

今回は、半導体グレードのダイヤモンド基板製造とその事業化に挑戦されている、株式会社VISION IV 代表取締役の小関さんにインタビュー。起業に至った経緯や、今後の展望、ダイヤモンド基板の可能性などをお聞きしました。

起業家プロフィール

小関 智昭(オゼキ チアキ)

株式会社VISION IV 代表取締役

神奈川県横浜市出身。高校2年生のときに英国のUnited World College of the Atlanticへ留学。京都大学法学部にて学士号を取得後、ペンシルバニア大学ウォートン・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。外資系投資銀行(ソロモン・ブラザーズ、ゴールドマン・サックス、UBS)に16年勤務した後、日本GEやニデックでM&A・財務の責任者を歴任し、ニコンで財務企画部長等を歴任する。2021年に株式会社VISION IVを起業。

事業内容

当社は、超電導用ダイヤモンド電極の開発・製造・販売を行っています。今後は放射線センサーやパワー半導体用のダイヤモンド基板を開発・製造・販売する予定です。
詳しくはウェブサイト(https://visioniv.co.jp/)をご覧ください。

ダイヤモンドを活用した半導体

半導体にはさまざまな種類がありますが、その一つにパワー半導体があります。当社では、このパワー半導体に応用できるダイヤモンド基板を開発しています。ダイヤモンド半導体はエネルギー効率が高く、かつ丈夫であることから、幅広い分野での活躍が期待されています。

シリコンベースの基板と比べた場合、エネルギー効率と強度に大きな違いがあります。ダイヤモンドを用いた半導体は、熱を逃がす優れた伝導性によりシリコンベースのものよりも電気を有効に利用できます。そのため、省エネに貢献し、環境負荷の低減につながります。

また、ダイヤモンドは地球上で最も硬い物質と言われ、放射線が飛び交うような過酷な宇宙環境でも壊れにくい特性を持っています。もし宇宙開発の現場でダイヤモンド半導体が使われるようになれば、さまざまな計測が可能になると考えられます。さらに、放射線への強さという観点から、福島原子力発電所の廃炉プロジェクトなどにも活用できる可能性があります。

現在、ダイヤモンド半導体に関するスタートアップ企業が資金調達を達成していますが、これは「未来の可能性」に大きな期待が集まっているからだと考えています。

ダイヤモンド半導体に活用できるダイヤモンドのメーカーとして

いま、ダイヤモンド半導体を使ったビジネスを手掛けるスタートアップはいくつか存在しますが、肝心の土台である「半導体グレードのダイヤモンド基板」は依然として欠如しています。そこで当社は、ダイヤモンド基板を製造する素材専門のスタートアップとして参入を計画中です。

実際、ダイヤモンド半導体の基板を製造している企業は多くありません。半導体として活用するには高い純度のダイヤモンドが必要ですが、どの程度の純度が必要なのかは明確に定義されていません。また、絶縁体であるダイヤモンドを半導体として使うには、ホウ素などの素材をドーピング(添加)する必要があります。当社はこのホウ素を高濃度でドーピングする技術を世界最高レベルで獲得しており、現在特許申請の準備を進めています。

純度の高いダイヤモンドをつくるには、多くの手間と費用がかかります。当社では、純度が高く厚みのあるダイヤモンドへ高濃度のホウ素をドーピングした基板の量産化を目指し、日々実験と開発を繰り返しています。今後2~3年のうちに、半導体として実用化できるダイヤモンドを完成させたいと考えています。
当社には長年ほかの素材開発で実績を積んできたケミカル系のエンジニアが多く在籍しており、素材に特化した技術力を武器に、世界レベルでも競争力を持っていると自負しています。

日本が得意とする高い素材技術を活かし、ダイヤモンド半導体の開発に全力を尽くすことで、エネルギー問題の解決策となる新素材を世の中に提供できると信じています。その実現に向け、私たちは挑戦と努力を惜しみません。

起業のきっかけ

当初は、宝石向けの人工ダイヤモンドを製造・販売するビジネスを考えていました。きっかけは、結婚30周年の記念品として妻へダイヤモンドを贈ろうと、葉山のジュエリーデザイナーの店を訪れたときに、人工ダイヤモンドの存在を知ったことです。

起業を考えていた私は、これを機に人工ダイヤモンドに注目し、ビジネス活用の可能性をリサーチしました。調べれば調べるほどダイヤモンドの奥深さに引き込まれ、人工ダイヤモンドの製造技術が、当時の同僚が扱っていた技術や知見と結びつくこともわかりました。
そのため、ジュエリーとしての人工ダイヤモンドに魅力を感じると同時に、日本の技術力の高さを活かせる分野だと考え、まずはジュエリーとして販売しようと考えていました。

しかし、K-NICの個別相談会で「合成ダイヤモンドの宝石製造販売では資金調達が難しく、補助金も出ない」と教えていただきました。さらに「大学の研究者と組み、大学の技術を世の中へ展開してはどうか」というアドバイスもいただき、その後に物質材料系の研究を行っている先生と出会ったのです。そこから、ダイヤモンドを半導体や電極に応用するというアイデアにたどりつきました。
ジュエリーも魅力的ですが、ダイヤモンド基板を半導体に活用できれば、エネルギー問題の解決など社会に大きく貢献できると感じ、大きく舵を切ることにしたのです。

事業計画を見直したハンズオンプログラム

私たちは2回、ハンズオンプログラムに参加しました。
2020年の1回目は、補助金申請の基本も事業計画もまったく分からない状態での参加でしたが、尾崎SV、岡島SVに根気強く丁寧にご指導いただき、事業計画と開発製品を大幅に修正。その結果、2022年度第1回のNEP(NEDO Entrepreneurs Program)で採択をいただくことができました。ハンズオンプログラムではNEDOの補助事業制度の趣旨から詳しく説明を受け、NEDO側がどのような申請を期待しているかを正確に理解できたことが最終的な採択につながったのだと思います。

2回目はDTSU(Deep Tech Startup Unit)の採択を目指して参加しました。DTSUはVCからの出資が前提であるため、具体的なVCとのコミュニケーション方法を中心に実践的なアドバイスをいただきました。現在はVCとの出資を協議している段階で、近い将来DTSUへの申請を実現したいと思っています。 前田サポーターや往西サポーターからもご丁寧なご支援をいただきました。
どのメンターの方ともハンズオンプログラム終了後もつながりを持たせていただいており、重要な局面で相談できることを大変ありがたく感じています。

今後の展望

現在、当社ではダイヤモンドアンビル一体型電極の開発・製造を進めています。ダイヤモンド電極を開発するなかで、高品質なダイヤモンドを製造する基礎技術を獲得できたため、今がチャンスと捉え、半導体用のダイヤモンド基板開発を一気に加速させたいと考えています。ここ1年半ほどで培った高品質ダイヤモンド基板の製造技術については、国内外のVCの方々にも理解が進んできているため、早期のシード資金調達を目指しています。