K-NICマガジン

研究開発型スタートアップとして起業したいと思ったら、まず何をすればいいですか?

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川崎市にあるコワーキングスペース&起業支援施設「Kawasaki-NEDO INNOVATION CENTER(K-NIC)」では、研究開発系スタートアップ支援の経験が豊富である3名のスーパーバイザー(以下SV)が参画しています。

今回はSVの岡島さんに、K-NICに対する想いや研究開発系スタートアップを立ち上げる際に必要なことなどをお話しいただきました。

K-NICのSVとは

専門的知見が豊富な、研究開発系スタートアップの支援のプロフェッショナル。K-NICメンバーへのメンタリングをはじめ、支援人材や連携機関などとのマッチングなどの幅広い支援を行っています。

岡島SVについて

2006年、電気通信大学大学院修了後、NECビッグローブ株式会社(現:ビッグローブ株式会社)にて動画配信サービスやインターネット接続デバイスの企画運営を担当。
2011年にハードウェア製造販売を行う岩淵技術商事株式会社を創業。自社製品開発以外にも、企業向けにハードウェアプロトタイピングやハードウェア商品企画の支援を行う。
2014年、ハードウェアスタートアップ向けのシェアファクトリー「DMM.make AKIBA」の立ち上げ及び企画運営に参加。
2019年よりハードウェアスタートアップを対象としたアクセラレータプログラム「HAX Tokyo」のディレクターとして立ち上げと運営に参加。同年より個人事務所設立。

岡島SVのご紹介はこちら https://www.k-nic.jp/wp202410/supportor/47/

岡島さんは何故K-NICのSVになられたのですか?

K-NICのSVになるまでは、自社の経営に関わりながら、知人の紹介でいくつかのスタートアップのサポートや、スタートアップ支援施設・アクセラレータプログラムの立ち上げに関わってきました。そうした活動を通じた中でのご縁から、K-NIC立ち上げの相談をいただいたことがSVとして関わるようになったきっかけです。

研究開発型スタートアップとして、研究成果をもとに事業を作り出すことは、顧客探しから製品化まで、半年や一年でできるものではありません。
スタートアップを支援したいと考えるVCや民間企業の立場で考えても、投資の結果がリターンが返ってくるまで時間がかかり、支援が難しい部分があります。
だからこそ、民間とは違った判断基準で施策を行う行政だからこそ、そうした研究開発型スタートアップをサポートできることがあるのではないかと思います。
なので川崎市やNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)、川崎市産業振興財団のような行政が、研究開発型スタートアップのサポートを行う、ということに大きな意義があると感じました。
行政の立場だからこそ、民間とは違った視点で研究開発型スタートアップを支援できる。
そう考え、K-NICのSVを引き受けさせていただくことにしました。

K-NICとはどんな場所ですか?

K-NICは様々なジャンルの「研究開発型ベンチャー」を手伝う場として作られています。
K-NICを通じて、より多くの研究者やエンジニアが「ビジネスって良いかも」と思ってもらえるとうれしいですね。
ビジネスをしたいと思った研究者やエンジニア には、まずはK-NICに相談してほしいと思います。

K-NICが開設して6年目になりました。K-NICは変わりましたでしょうか?

サービスの質はいい意味で変わっていないと思います。
いただいた相談に対しては、何かしらお役に立つレスポンスができていると思っています。
スタートアップの支援といっても事業計画作成のお手伝いのようなもの以外にも、ピッチ作りのお手伝いから起業家自身のモチベーションのケアまで幅広いものです。シードステージのスタートアップにおいては特にそう感じます。

そうした幅広い相談ごと・悩みごとに対して川崎市の方やK-NICスタッフはじめ様々な方が、サポーターという形でレスポンスしています。様々な領域でプロとして活動するサポーターが多くいることは様々な相談に柔軟に対応できる強みになっていると思います。
このような点は、K-NIC立ち上げの頃から今まで良い意味で変わっていないと思いますね。

研究開発型スタートアップとして起業したいと思ったら、まず何をすればいいですか?

大きく分けて、2つ考えるべきことがあります。自分自身のことと、事業内容のことです。

まずは自分自身(創業者)のことについてです。

「何のために起業するのか」を自分自身で明確にすることが非常に重要です。起業には辛いことが多いので「何のために」が明確ではないとメンタルが疲弊することもあります。

モチベーションを明確にすることも重要です。お金、世間からの注目、自分の資金で研究を続けたい、自分の研究の社会実装……。内容はどうあれ、それらは尊重されるべきものでしょう。

そうした、忙しくなればなるほど忘れてしまうモチベーションを言語化することは、ステージによってはVCなどへのピッチの中に入れることで「事業をやり切ること」への説得力が増す可能性はありますし、何より自分自身がそれを時折振り返り、事業を進める原動力になるでしょう。

次に、明確になった自分のモチベーションに応じて「着実に儲ける中小企業的な成長」なのか、「大規模なバイアウトやIPOを目指すJカーブ的な成長」なのか、または別の形の成長なのか、自分に合った成長プランをイメージすると良いでしょう。それにより、事業の進め方やスピード感が変わってきます。

総じて、自己理解が創業者には非常に重要です。自分が何をやりたいのか、事業をどう成長させたいか、などなど自分自身の考えを言葉にするべきでしょう。事業を成長させることができている起業家は、多くの場合、自身のモチベーションや会社の将来像を、借物の言葉ではない「自分の言葉」で語ることができる人が多いです。自分の言葉で語るためには、自己理解の深堀が必要です。1度2度で終わりではなく、ずっと続けていくことです。

続いて事業内容についてです。
まずは、どのような事業領域でどのような課題を解決するビジネスをしたいのかを明確にしましょう。

よくあるパターンが「学会で評価された研究だから、その成果をそのまま商品にしたら売れるだろう」「技術が良いから売れるだろう」という考えで事業を進めるパターンです。このような考え方はうまくいかないことが多いです。
「どのような顧客(企業や個人)のどのような課題を解決したいのか、何を製品として提供しどのようにお金を払っていただきたいのか」を考えることが重要です。

そのためにも、課題が実際に起きている現場を観察することや、自分の技術と似た技術を使ってビジネスを既に始めているスタートアップを国内外問わず調査する事が重要です。

例えば「自分の技術が食品工場にあるこのような製造ラインで使えるはず」と想定していても、実際の現場や競合になるであろうスタートアップを調査する事で様々なことがわかってきます。

「思ったより現場で支えてもらえそうだ」といったポジティブな内容もあれば、「想定していた使い方はできなさそうだが、こういうビジネスでは可能性がある。」といった方針転換のきっかけになる内容もあるでしょう。
また、「こんな技術水準でも売れているけどどうして?」と感じる事例に出会うかもしれません。技術のレベルと売上がリンクしていないことも実際のビジネスではよくあることです。

自分たちの研究がどのような領域で「お金になるのか」、事業化のキーになる技術はどのような技術なのか、を知るためにも、課題が実際に起きている現場を観察することや、自分が事業化したい領域での先行スタートアップの調査は重要です。

方向転換を恐れない

経験を積んだ起業家から「最初のアイデアは実は筋がよくなかった」という話を聞くことは多いです。また最初から最後までアイディアが全く変わらない、というケースも少ないです。先ほどもお話しましたが、実際の現場の観察や顧客候補へのヒアリングを通じて当初持っていたアイディアにも様々な改善点が見えてくるでしょう。
なので、最初のアイデアにこだわらないことは大事です。
「これは何のためにやるビジネスなんだっけ」「自分はどういう課題を解決したいんだったっけ」ということを振り返りつつ、当初のモチベーションから(悪い方向に)大きく外れていなければ、、当初考えいていた事業内容にはこだわらなくても良いと考えます。

登記は急がなくても良い

「事業も考えたし、とりあえず形だけでも会社を作るか」と考えて登記を目指す方は多いと思います。しかし、登記して会社という器を作ると様々な金銭的なコストや事務作業が発生します。こうした作業は、多くの場合事業作りには直接関係ありません。
もしも今、働きながら、または学生をしながら事業を考えているのであれば、登記前が最も自由に事業計画を考えられるタイミングとも言えます。す登記する前にできる限り事業について考え、信頼できる人にできる限り相談することは結果的に深く事業を考える時間を確保することにつながるでしょう。

まずは相談をすることが大事

起業する前でも事業計画や資本政策、チーム作りなど、相談して知っておいた方がいい、基礎的な知識がたくさんあります。
ただ、起業に関する相談をしようとしても、相談内容自体がうまく整理できずフワフワしているかもしれません。そうした場合にもK-NICであればお手伝いできる部分があるでしょう。
起業して事業を進める上では様々な「失敗」から逃れられません。しかし、失敗にも「リカバリーできる失敗」と「リカバリーしづらい/できない失敗」があります。資本政策の失敗は後者の代表例です。後者のような失敗を避けるためにもいつでも相談できる先は持っておくべきです。

そしてできれば相談先は一箇所に絞らず、複数持つべきです。行政の立場、学校の立場、VCの立場、立場が変わると相談に対するフィードバックは様々に変わります。様々な視点を取り込むことで、リカバリーしづらい失敗を減らすことができます。
つまりK-NICだけにしか相談しないのも良くありません。VCであれ大学であれ、いろんなところに相談できるようにしていきましょう。