養殖畜産業を救い、食糧生産を持続可能に カンボジアでミズアブにかける思い【かえるくん】
川崎市にあるコワーキングスペース&起業支援施設「Kawasaki-NEDO INNOVATION CENTER(K-NIC)」で開催している「K-NIC Startup Starters Program(スタートアップスターターズプログラム)」。
研究している技術で起業を検討しているけれど、経営知識や起業に必要な知識に自信がなく、どのようにはじめの一歩を踏み出したらよいかわからないという方を対象に、起業の基礎知識習得やピッチスキル向上をサポートしています。
今回は、2022年にプログラムへ参加された、“かえるくん”こと、橘木良佑さんにお話を伺いました。
単身カンボジアで「ミズアブ養殖」事業に挑戦するに至った経緯と思い、気になることばかりです。
起業家プロフィール
かえるくん(本名:橘木良佑)
宮崎県出身。
かえるに詳しいことから、「かえるくん」と呼ばれる。
宮崎県椎葉村にて、「平家キャビア」の養殖・加工を行った後、カンボジアでコオロギ養殖拠点立ち上げに関わり、カンボジア現地に住み込みでコオロギの養殖・加工・研究を担いながら、カエル養殖を学ぶ。
現在、ミズアブの養殖事業を構築中。経済産業省・JETRO主催 始動 Next Innovator 2022に参加。
かえるくん カンボジアでミズアブを育てる
――簡単に自己紹介と、事業のご紹介をお願いします。
自分は子どもの頃から虫や魚を捕まえるのがすごく好きで、大学ではかえるについて研究し、「かえるくん」と呼ばれていました。
大学卒業後は色々な生き方を模索していましたが、ある時、宮崎県椎葉村で知り合いが携わっていた「平家キャビア」の養殖に出会ったことで養殖業の奥深さにはまり、「ずっと養殖の世界にいよう」と決め、その後、コオロギの養殖・加工・研究をするベンチャー企業に関わることになりました。
そこで「カンボジアではカエル養殖が盛んである」という話を聞きつけて現地へ行ってみることにしたんです。
実際カンボジアのかえる養殖業者のところに行ってみると、食品廃棄物を与えて育てたミズアブをかえるや鶏に食べさせていました。
それで興味が出てきて、ミズアブについて調べてみると、生き物としての魅力を感じたんです。
有機物を分解し、タンパク質を作るという虫の社会での役割を初めて理解できました。
成虫になったら水しか飲まないので病気を媒介しないですし、ミズアブを飼料として食べた生物の免疫機能を高めるという効果もあります。
さらにミズアブは食品廃棄物を食べてくれるので、一般的な養殖業や畜産業で大きな負担となっている飼料代を減らすことができるんです。ゴミも減るので、一石二鳥ですよね。
近隣の他の国でも大規模にミズアブ養殖に取り組む企業があったので、僕はとりあえず現地でミズアブの小規模養殖をしているところに弟子入りして、現地での育て方を学ぶことにしました。
具体的には、食品廃棄物を幼虫に食べさせ、2週間くらいで大きくなったら飼料として商品化し、排泄物は肥料にするという流れですね。
そこから発展して、今では「食糧生産を持続可能にする」というビジョンのもと「養殖の力で持続可能な食糧生産の仕組みを作る」というミッションを掲げ、カンボジアを拠点に飼料用ミズアブの養殖事業を進めようとしています。
自分の弱みに気づき 次のステップへ
――K-NIC Startup Starters Programに参加してみた感想を教えてください。
ネットで技術系・テック系のアクセラレーションプログラムを探していた時に、K-NIC Startup Starters Programを見つけたんです。
ディープテック分野で事業化していくときに何が必要なのか全く分からなかったので、「とりあえず受けてみよう」と思って申し込みました。
尾崎典明さん、岡島康憲さん、武田泉穂さんにプレゼンのフィードバックをいただきました。
実際にメンタリングを受けてみると、「大学の研究室との共同研究などを通じて、コアとなる技術を開発して優位性を確立した方がよい」「プロトタイプを作って1円でも売上を作ってみよう」「顧客のニーズを聞こう」というような具体的なアドバイスをいただき、自分は数字が弱く事業計画について細かく考えられていなかったことなど、「自分にはこれが足りていなかったんだな」と気づくことができました。
また「起業には時間がかかるけど、自分が『社会に必要だ』と思うものがあるんだったら、しっかり頑張れ」という激励の言葉もいただけて、メンタリングを受けてからはK-NICの動画を活用しながら、自分でも事業計画を作ってみたりするようになりました。
K-NICには様々な専門分野、技術分野に強いメンターがいらっしゃるので、専門的な知見からの支援が必要なら、参加してみる価値はあると思います。
日本とカンボジアで ミズアブ飼料の可能性を広げたい
―今後の目標は何でしょうか。
まず年内に仮説検証をして、事業計画を作ること、売上を立てることを目標にしています。
今はまだミズアブ事業を本業にできていませんが、事業を継続的に行いたいので、お金と研究のためのネットワーク、協力者を作ることが必要です。
先日も、日本に帰ってきたときに研究者の方々や食品加工会社とお会いし、「一緒に連携できませんか」というお話をしました。
日本でも養殖の研究や実証を行いたいと思っています。
あとは、ミズアブのプロダクトをリリースして仮説検証を行いながら売上を作り、投資を増やして生産規模を少しずつ拡大していきたいです。
また食品廃棄物処理に課題を抱える食品工場とも連携を模索していきたいです。
ミズアブの飼料が広がることで、「育てた養殖畜産物が美味しくなった」「免疫力が高まった」「成長が早くなった」などの声を増やしていき、養殖の世界に貢献していきたいです。