スピーディーな品種改良技術で世界の農業を救う。未開拓のマーケットへの挑戦【株式会社クォンタムフラワーズ&フーズ】
川崎市にあるコワーキングスペース&起業支援施設「Kawasaki-NEDO INNOVATION CENTER(K-NIC)」で毎年2回開催している「K-NIC Startup Hands on Program(スタートアップハンズオンプログラム)」。
ディープテック領域で具体的な技術シーズがあり、研究開発要素のある事業で起業を目指す方を対象にした本プログラムでは、NEDOのスタートアップ支援事業(NEP、STS等)での採択や資金調達に成功した起業家を多数輩出しています。
今回は、2022年上期に採択された株式会社クォンタムフラワーズ&フーズ(QFF)の取締役CFO・宇留野秀一氏に、ハンズオンプログラムで受けた支援内容やその後の事業について伺いました!
企業プロフィール
株式会社クォンタムフラワーズ&フーズ
中性子線を用いた「量子バイオテクノロジー」を世界で初めて社会実装した、ディープテック・カンパニー。
茨城県水戸市に本社オフィスを構え、量子農業・中性子線育種・量子バイオ技術の開発、供与、知財管理などを行う。2018年設立。
HP)https://qff.jp/
品種改良を、従来技術の約半分の期間で実現
―― QFFの事業について教えてください。
植物の種や微生物の品種改良を、従来の約半分の期間で行える「中性子線育種(放射線育種)」を事業としています。
「中性子線育種」とは、植物の種や微生物など、DNAを持った生命体に放射線の一種である中性子線を当てることでDNAを壊し、DNAが修復する際に起こる突然変異を人為的に発生させる育種技術です。
QFFでは、中性子線を当てた種や微生物のうち、有用な形質の生命体をスクリーニングして抽出することで、品種改良や、新機能を持った細胞の開発を行っています。
突然変異のメカニズムは自然界で起きているものと全く同じで、放射線育種自体は1960年代から世界中で長く活用されているのですが、「ガンマ線」と呼ばれる放射線や、「重イオンビーム」というビームを使って行われる従来の手法はそれほど効率の良いものではありませんでした。
私どもは中性子の特性を利用することで、従来よりも大幅に効率的な放射線育種ができるようにしました。
一般に植物の品種改良は新系統を作り出すのに3〜5年以上かかりますが、QFFの中性子線育種技術であれば、従来の約半分、1~3年で新系統を生み出すことができ、「中性子を利用した突然変異体の生成」において特許も取得しています。
―― 提供しているサービスは、どんなものがありますか?
中性子線の照射が主なサービス内容ですが、顧客から植物の種や微生物を預かって中性子線を照射し、その後の選抜や育成は顧客側で行って頂くサービスと、特定の形質や機能の開発までを請け負うサービスの2通りがあります。
顧客は、種を作っている会社、農業生産をしている会社、食品加工会社、化粧品メーカー、カーボンニュートラルのために微生物の開発を行っている会社など様々です。
地元・茨城の環境を活用して新しいビジネスを
―― この事業で起業しようと思ったのはなぜですか?
茨城大学の先生よりお声がけいただいたことがきっかけです。
地元の茨城は農業が盛んでインフラも多く、加速器施設やニュートリノ実験施設などを保有するJ-PARCという世界有数の研究開発施設もあるので、そういった環境を活用して植物の育種をしてみてはどうかと発案いただきました。
―― 農業に関する知識をもともとお持ちだったのですか?
農業とは少し異なるのですが、代表取締役の菊池は物理学のドクターで、イギリスのオックスフォード大学で博士号を取得しているんです。
菊池の実家がモーターの製造を行っている会社で、そのリソースを活かして、電力がない発展途上国でも小さな川の水力で発電できるという発明をし、JICAのプロジェクトに参画するなど、SDGsに沿った事業をした経験があります。
私は会計事務所のコンサル業をしていたのですが、地元(茨城)の有志が集まった際に「会計なら宇留野に任せよう」ということで誘われました。
私の実家が、日本で初めて放射線育種が行われたガンマ―フィールド(茨城県常陸大宮市)のすぐ近くなので、放射線育種については小さな頃から馴染みがあったんです。話をいただいたときに「面白い」と思い参画しました。
市場開拓は研究と実験の積み重ね。見えないマーケットへの挑戦
―― 起業してから現在まで、特に苦労したことは、どんなことですか?
顧客が見えるまでが、かなり苦労しました。
理屈では「植物の育種に使えるだろう」ということは分かっていたのですが、それまで実用的ではなかったということもあり「こんなことができますよ」と提案してもすぐに受け入れてもらえる状況ではなかったんです。
お金を払って利用する価値のあるサービスであることを証明するために、単に中性子を当てるだけでなく、どう当てれば良いか、どういう開発の仕方をすれば良いかの研究や実験を重ねました。
一般的に『市場開拓』というと、「どうやってサービスを知ってもらうか」というアナウンスに注力すると思うのですが、我々の場合はアナウンスよりも、技術の効果を信頼してもらうための証明づくりが必要で。
マーケットがなかったので相場もなく、価格としてどれくらいが妥当なのかも、いろんなことを積み重ねて説得していく必要がありました。
そもそもマーケットがあるのかも不透明だったので、一般的な市場開拓の方法ではなかったことが非常に苦労しましたね。
資金調達に向けてハンズオンプログラムに参加
―― ハンズオンプログラムに参加したきっかけを教えてください。
K-NICのことは、KSP(かながわサイエンスパーク)に紹介いただきました。
事業を進めるにあたって複数のVCと話をしていたのですが、中でもKSPとは深い話ができていました。当時はマーケットがまだ見えていない状態だったため、KSPからの投資には至らず、その話しの過程でK-NICを紹介いただき「やってみよう」ということになりました。
―― ハンズオンプログラムに参加されて、変わったことはありますか?
プログラムでは主にピッチの部分をメインに指導いただき、ピッチ資料をブラッシュアップする良い機会になったと思っています。
プログラムに参加する前は、上場企業の担当経験もある会計士にアドバイスいただいてピッチ資料を作り込んでいたのですが、それをイチから見直しました。
以前はいろんな要素を取り込み、その中から必要なものを説明するスタイルだったのですが、どういう部分が注目されていて、どう事業を説明するか絞り込み、数枚で説明できるようにしました。
当時ブラッシュアップした資料は、基本的にはいまも使用しています。
VCに説明するだけでなく、お客様に事業内容を説明する際にも使用しているので、弊社について説明する際のベースになっています。
―― プログラムのメンタリングはいかがでしたか?
メンターさんは厳しかったわけではないですが、いろいろと叱咤激励いただきました。
我々の場合は一か所で仕事をしているのではなく、分散ワークをしているので、Zoomでお話しできるのは有難かったですね。
また、ピッチだけでなく商社の方を紹介いただいたりして、QFFの取引範囲を拡げることもできています。
温暖化で苦しむ農業を救いたい。唯一無二の中性子線育種技術を世界へ
―― 今後の展望を教えてください。
「新しい品種の開発」は社会課題です。
温暖化が進み、これまで畑で作れていたものが作れなくなったり、病気になってしまったりして、世界的に『農業』そのものが存続の危機に直面していて。そこに取り組む必要性は非常に高いと感じています。
この問題は、国でも政策の取り組みが必要とされていて、現時点では品種改良の方法として、遺伝子の人為的な操作技術である「ゲノム編集」が注目されています。そのため、今後はゲノム編集の市場規模が拡大すると言われているんです。
QFFの放射線育種(中性子線育種)は、DNA上の特定の塩基配列を狙って変化させるゲノム編集とは異なり、ランダムにノックアウトして発生する「ランダム変異」の誘発能力が非常に高いので、ゲノム編集と相関関係でやっていける部分があります。
まず、QFFの技術でランダムにいろんなものを作った後、ゲノム編集をするために“どこをどう編集すれば良いか”を探し出すことができます。
なので、現在はゲノム編集を行っている複数の会社と業務提携を進めています。
国内の、品種開発や微生物開発を行っている企業や機関とタッグを組みながら、まずは国内浸透を目指しています。
直近ですと、2023年10月にパシフィコ横浜で開催される「BioJapan2023」、福岡で開催される「モノづくりフェア2023」の茨城ブースに出展予定です。
ゆくゆくは海外にも浸透させたいと考えていて、9月にはタイ・バンコクで開催される「Vitafoods Asia 2023」に出展を予定しています。
中性子を使用した変異体生成技術を持っているのは、現時点では世界中でQFFだけなので、世界中に我々の技術を広めていきたいです。
株式会社クォンタムフラワーズ&フーズ(QFF)
事業本部 | 〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-3-1 新東京ビル4階 NEXs Tokyo内 |
本社事務部 | 〒310-0913 茨城県水戸市見川町2563-77ルレーブ見川2-101 |
QFF東海ラボ | 〒319-1106 茨城県那珂郡東海村白方162-1 AYA'S LABORATORY 量子ビーム研究センター2号棟101号室 |
DeepTech領域の事業で技術シーズを有し、NEDOが実施する研究開発型スタートアップ支援事業等へのエントリーや、VC等からの資金調達、事業会社との協業を目指す起業家候補や研究開発型スタートアップに対し、短期かつ集中的に個別のハンズオン支援(メンタリング)を実施することで、起業の促進及び事業化の加速を目指すアクセラレーションプログラムです。
① 事業化支援
K-NICの支援人材で経験分野の異なる2人のメンターにより、継続したメンタリングを実施。ビジネスプランのブラッシュアップや事業化に関わる助言、ピッチデックのブラッシュアップを実施。
② アライアンス支援
投資家やVC、協業可能性のある企業・連携先人材等の紹介・斡旋をメンターを通じ紹介。
③ 資金調達支援
・公的資金NEDOをはじめとした各種公的資金の紹介や申請に関わるアドバイスを実施。
・民間資金ギャップファンドやVC、金融機関などの紹介、斡旋。金融機関の口座開設等に関わるアドバイスを実施。
④ 広報支援
本プログラムにおける活動や取り組み成果などの広報支援を実施。
ハンズオンプログラムの参加者募集は、開催が確定し次第、K-NICホームページのイベントページに公開されます。
◾️◾️ハンズオンプログラム紹介ムービー◾️◾️