テック系ベンチャーが本当に押さえるべき知財戦略 Vol.1(必須特許編)
テック系ベンチャーにとって大切な「研究成果」や「開発した技術」。
リソースが不足する中でも競合相手に戦いを挑み、勝ち抜いていくためには必須特許に基づく知財戦略が不可欠です。
今回は小説「下町ロケット」に登場する弁護⼠事務所のモデルとなった、弁護士法人内田・鮫島法律事務所に在籍する、丸山弁護士兼弁理士に登壇いただき、ベンチャー企業が押さえるべき知財戦略について、下記3つのテーマに分けてお話しいただきました。
② 強い特許とは何か「クレーム*文言の組み立て方」
③ 強い特許を取得するための方法論「発明発掘」
※クレーム:特許の権利範囲を決める文章のこと
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【 講師 】
丸山真幸 氏
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士
東京大学工学部(原子力専攻)卒業。
特許事務所にて約8年の実務経験を積んだ後、小説「下町ロケット」に登場する弁護⼠事務所がモデルとなった現事務所に移籍。特許・意匠・商標・著作・不競等、数多の知財紛争における経験を活かし、主にテック系のスタートアップ・ベンチャー企業を対象に、真に「強い」知財戦略を策定・実行するためのサポートを実施。特許リサーチに基づく発明発掘・アイデア出しが得意。2019年より、リアルテックファンド「Patent Booster」就任。
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知財、特許の基本
本編に入る前に「知財(知的財産権)、特許(特許権)とは何か」についてお話しします。
知財とは
知財を2軸で整理すると上図のようになります。
特許権:“技術よりの知財”であり、抽象的なものから具体的なものまで広くカバーする
その他の権利:不正競争防止法、契約 等でカバーする
研究開発型のスタートアップにとっては「特許権」が知財戦略の要になります。
特許とは
特許は、特許庁に申請することで、新しいアイデア(発明)を最長で20年間保護する制度。申請時は「新規性・進歩性」などが審査されます。
自分のアイデアを守れる一方で、アイデアの内容を公開する必要がある、多額の費用がかかるなどのデメリットもあります。
では、リソースや資金が不足しがちなベンチャー企業やスタートアップは、なぜ特許を取得する必要があるのでしょうか。
特許を取得するメリット
特許を取得した際にできることとして、「差止請求」と「損害賠償請求」の2つが主に挙げられます。
① 差止請求
特許に記載しているアイデア/発明を第三者が使用したときに、使用をやめさせる(=ビジネスを止める)ことができる。
② 損害賠償請求
利益相当もしくはライセンス相当の賠償を請求することができる。
中でも差止請求は、競合他社のビジネスを1発で止めることのできる非常に強い効果があります。
この差止請求権を獲得することが、特許権を取得する大きなメリットと言えます。
知財戦略の基本セオリー「必須特許ポートフォリオ論」
ここからは
・「必須特許」とは何か
・必須特許を持っている企業は市場でどういう戦略を取るのか
について解説します。
特許に関する勘違い
「特許を1つ取得すれば、同じような製品・サービスを保護でき、誰も真似できなくなる」というケースは非常に稀で、基本的には1製品・サービスに対して数十~数万件の、色々な会社の様々な特許が含まれています。
市場参入には「必須特許」が不可欠
必須特許とは、製品・サービスを新しく作るために避けては通れない必須の特許のことを言います。
ただし、必須特許を1つ持っていれば、競合他社の市場参入を防げるかというとそうではありません。
競合他社が必須特許を持っていた場合、特許権を⾏使して市場から追い出そうとするとやり返されてしまうためです。
そのため、必須特許を持っている会社同士で仲良くし、利益を分け合う戦略を取ることが合理的です。
一方、必須特許を持っていない企業が市場に入ろうとしてきた場合、追い出してもやり返される心配がないため、必須特許を持っている企業は特許権を行使することで競合他社の新規参入を防ぐことができます。
⾔い換えれば、必須特許は市場への入場券のようなものです。
必須特許を持っていない企業は市場に入れず、市場に入れたとしてもその後の継続が難しくなるのです。
強い特許とは何か「クレーム文言の組み立て方」
必須特許を取得する際に重要なのが「クレーム文言の組み立て方」です。
「クレーム」とは、特許を出願する際に、特許をとりたいアイデア・発明がどのようなものかを特定する事項を記載したもののこと。
この書き方次第で特許の権利範囲が定義されます。
クレーム文言が狭すぎる(限定的すぎる)と回避が容易になり役立たず、広すぎると従来技術と変わらず新規性がないため無効にされます。
強い特許にするためには、回避困難かつ新規性のある適切なクレーム文言を作成する必要があるのです。
侵害検出性の低い特許はあえて取得しない選択肢も
特許を取得する際には「特許侵害が検出できるものなのか」も十分考慮する必要があります。
例えば、製造方法やシステム内部のアルゴリズムなどは、製造⼯程や仕様書、ソースコードなどを見ないと正確には把握できません。ですが、通常それらは企業の機密情報のため、第三者が侵害の事実を証明することは非常に困難です。
こういった特許侵害の検出が難しい、侵害検出性の低い特許の場合、あえて特許取得しないという選択肢もあります。
特許出願時には、まず侵害検出性が十分にあるのかを考え、クレーム文言の作成時も専門家に全て任せるのではなく一緒に考えることが大切です。
強い特許を取得するための方法論「発明発掘」
最後に、強い特許を取得するにはどうすれば良いのかについて、ビジネスモデル特許を例に発明発掘の考え方について説明します。
ビジネスモデル特許とは、アイデアやビジネスを実装する際のシステムや技術的な工夫についての特許です。
新規のアイデアを実装する際に、新たに生じる課題に焦点を当て深掘りしていくことで、その課題を解決するためのさらなるアイデアを発明することが出来ます。この先取りされた課題から⽣み出されたアイデアは、新規性がありつつも回避が困難な、強い特許に成⻑するポテンシャルを秘めています。
真に強い特許というのは「ただ権利範囲が広いだけの特許」ではなく、製品・サービスを作るにあたり避けては通れないポイントや解決すべき課題に対してピンポイントに設定され、「後発がその特許を必ず使わざるを得ない特許」であると言えるでしょう。
まとめ
本イベント「テック系ベンチャーが本当に押さえるべき知財戦略 Vol.1(必須特許編)」では
・知財、特許とは何か
・特許を取得するメリット
・必須特許とは何か
・強い特許を取得する際に必要なこと
について、下記3つのテーマに分けて解説しました。
② 強い特許とは何か「クレーム文言の組み立て方」
③ 強い特許を取得するための方法論「発明発掘」
優れた知財戦略においては、自分たちが強みとする技術やアイデアを的確に把握し、適切なタイミングで特許出願を行い、さらに1つ1つの特許の質を高めていくことが⽋かせません。
強固な必須特許ポートフォリオを築くことで、後発を抑える効果に加え、様々な波及効果(契約交渉上を有利に進める、投資を受けやすくなる、⼈材獲得にプラスとなる等)も期待できます。