K-NICマガジン

素材業界を変えるシーズの社会実装に挑戦!研究者から起業家への道のり

この記事URLをコピーする

川崎市にある起業家支援拠点&コワーキングスペース・K-NICを利用しながら活躍されている起業家に、
起業までの軌跡やK-NICの便利な活用方法などをインタビューするシリーズ。

今回は、2022年度K-NIC Startup Hands on Programに採択されたChemica中野さんにお話しを伺いました。
現在広島大学で博士課程として研究されながら、起業を目指して活動されている中野さんに、研究者から起業家になろうとされている「今」のことをお聞きしました!

起業家プロフィール

Chemica 中野佑紀氏

2013年に広島大学にて修士(理学)を取得。その後、化学メーカーで電子デバイス・半導体関連の研究開発と技術営業・事業開発に従事する。2021年9月に関西学院大学経営戦略研究科にて経営管理修士(専門職)を取得。2021年10月より広島大学(博士課程後期)に在籍し、起業準備中。

素材におけるイノベーション

事業について教えてください。
我々は今、広島大学 西原禎文教授の研究シーズである単分子誘電体の社会実装を目指しています。「単分子誘電体」というワード、殆どの方にとっては聞きなれない言葉だと思います。それもそのはず、我々が名付けた言葉なのです。この材料はポリオキソメタレート、ポリ酸と呼ばれる既知材料なのですが、この材料にメモリとしての新たな特性を見出しました。単一分子に電気を溜めて、電気的(プラスとマイナス)に情報を記録できる。これは世界初の発見で我々の強みです。
事業は2本立てで考えています。1つ目は単分子誘電体を使ったデバイス、特にメモリの研究開発です。材料開発や特性評価、デバイスに実装するためのプロセス開発をしていきたいと思っています。
2つ目は単分子誘電体やメモリの研究開発から得たノウハウや分析・評価技術の提供です。メーカーさんの課題に対して、解決策の提案や新規用途開発のお手伝いをしていきたいと思っています。

創業への道のり
西原先生と二人で創業する予定です。2010年に西原先生と私は指導教官と学生の立場として出会い、研究を行っていました。その後、私は修士卒で化学メーカーに就職し、半導体や電子デバイス向け材料の研究開発や技術営業を行っておりました。就職後も西原先生とは定期的にコミュニケーションを取っていたのですが、単分子誘電体の話を聞き、「これは世界を変える新しい技術になる!」と思い、今に至ります。会社員時代に新規事業開発を経験させて貰い、ビジネスを学ぶためにMBAも取得したので、事業を立ち上げるという立場でこのプロジェクトに参画しました。

そのシーズに魅力を感じられたのですね
既知材料から世界で初めての特性を見出したというストーリーに魅力を感じました。私も素材メーカーで働いていたのですが、この産業や会社が好きだからこそ、この優れた産業を将来に繋げなければならないという使命感を持っていました。素材メーカーは自社製品の新規用途を常に模索していると思いますが、なかなか見つからないのが状況だと思います。そのような状況の中で、既知材料に対して、切り口を変えて新しい機能創出を見出し、事業化することは、日本の素材メーカーをさらに盛り上げることに繋がると思っています。市場や用途を変えたら同じものを使っても全く違うモノになり売れていく。そういうところが面白いですね。

K-NIC Hands on Programについて

ハンズオンプログラムはいかがでしたか?
他のアクセラプログラムにも採択頂いたことがありますが、K-NICのハンズオンプログラムが一番厳しかったです。(笑)私一人にメンターが3名ついて下さっていたり、2週間に1回メンタリングという短期集中スパンだったりで、体力的にも大変でしたね。事業化についてもビシバシ鍛えてもらいました。メンターの前田さんにはお会いして話す機会も多いですし、岡島さん・山口さんにもこんなイベントがあるよ、など情報をいただいており、ありがたく思っています。おかげさまでNEDO TCPは最終審査会でJST賞、品川区のビジネスコンテストも優秀賞,ESG TECH BATTLE2023では何と最優秀賞を頂くことが出来ました。このハンズオンプログラム後のビジネスコンテストではほぼ負けなしで進んでいます。

ハンズオンプログラムのメンターについて
岡島さんはK-NICで出会う前からコミュニケーションを取っていました。私がやりたいこともハンズオンプログラム以前からご理解いただいておりました。ハンズオンプログラムが始まってからも、私の質問などにクイックに答えていただくのがありがたかったです。前田さんは最も厳しかった(笑)のですが、それがありがたかったです。印象に残っているのは「自分のやりたいことを芯に持ち、メンターの意見を全部取り込まずに、うまく活用するようにしてください」と言われたことですね。骨身に響きました。多くのインプットに対してバランスをとったアウトプットするのが私の悪いクセなのですが,「そういうのはやめた方がいい」とビシっとおっしゃっていただいたのが強く印象に残っています。山口さんはご専門が近かったので、技術的な議論をさせていただきました。教科書通りのビジネスモデルではある必要はなくて、ディープテックならではのビジネスモデルの描き方があるということを教えていただきました

ハンズオンプログラムに参加して変わったことはありましたか?
まだまだこれからですが、これから1年程度はビジネスコンテスト等を活用させてもらいながら、我々の技術に対する認知度を上げて、仲間を集めていきたいと思っています。その際の伝え方や話し方などのお作法もこのハンズオンプログラムで骨子をつくってもらったと思います。最初の事業加速という意味では大変ありがたかったです。

起業を志す研究者へメッセージ

自分の信念や、やりたいことの本質を見つめ直し、アウトプットしていくことが大事だと思います。人に言われて決めるのではなく、自分でしっかり考えて決める。当たり前のことですが,そこが一番重要だと思います。そして、色々な専門家のメンタリングを受けながら,自分の納得するようビジネスの形を作り上げていけば後悔はしないのかな、と思います。

今後の展望

材料メーカーさんや半導体関連のメーカーさんと繋がれたらうれしいですね。自社材料の用途開拓をしたい方とも繋がりたいです。素材業界は色んな会社がありますが、自社の理念に基づいた様々なビジネスモデルがあると思いますので、ぜひ仲間として横のつながりをつくれたらいいなと思います。