イベントレポート「特許は取ればいいってもんじゃない?!知財戦略と事業計画の大事な関係」
「いつのタイミングでどんな特許を出して良いかわからない」
「何を特許として、何をブラックボックスにすればいいか悩んでいる」
「VCと話している内に“これ特許大丈夫ですか?”と言われてしまった。権利は大学にあるがどうしていいかわからない。」
上記のような「わかるような、わからないような」というモヤモヤを抱えている方や
「今更言われてもどうしたらいいんだ」とお困りの方は少なくありません。
そこでK-NICでは「知財戦略と事業計画」をテーマとしたセミナーを開催しました。
登壇講師
木本 恭介氏
2001年日本技術貿易株式会社に入社後、日本・米国市場を中心に、特許調査・分析案件に従事。専門分野は、情報通信分野で、主な顧客は、国内の大手電機メーカーをはじめ、通信事業者、自動車メーカー、複合機器メーカー、ゲームメーカー、など、国外は米国・欧州を中心とした各国弁護士事務所を担当。2017年からは、特許庁主導の中小企業支援事業の一つ、『中小企業知財金融促進事業(知財ビジネス評価書作成支援事業)』に、調査会社の一つとして参画し、社内にて当該プロジェクトを主導、地方金融機関向けに、融資先中小企業の事業性評価を行う業務にも従事。2020年1月より01Boosterに参画。工学修士、MBA。
こんな方におすすめ
・今後、技術を用いた事業を立ち上げたい方
・大学発ベンチャーを支援する産学連携機関の方
・起業を考えている研究者の方
・知財戦略について学びたい方
知財は守るから攻めるへ
前提として、大手企業もスタートアップも知財戦略でやることは大きく変わりません。
ただし、置かれた環境は異なります。スタートアップは大企業に比べて人もお金も時間も情報も足りません。
一方、特許登録の50%以上は使われていない現状があります。
スタートアップはこのようなムダをやっている余裕はないのです。
知財は『守る』つまり、技術そのものだけを保護する権利を取得することではなく『攻める』、
つまりインベンション×コマーシャリゼーションを意識した権利化をお勧めしています。
経営戦略があってこその知財戦略です。知財戦略は打ち手の一つにすぎません。
権利取得がゴールではなく、知財権でどのように自社のビジネスにレバレッジかけるのか、がゴールになります。
コストに対するROI(投資対効果)も重要です。熟考の結果、知財権を取らない、という判断もあり得ます。
レバレッジを意識した特許活用の事例
「いきなりステーキ」さんの特許をみていきましょう。
接客のオペレーションを特許にした事例になります。
「いきなりステーキ」さんは特許を使い、一気に店舗数を増やしました。
いわゆる、面を取りに出たわけです。
特許権があることで、その間、1年ほど競合が参入できなかったと考えられます。
「いきなりステーキ」さんは、特許取得のアピールを積極的にしていました。
特許になじみが低い外食業界の中で、ビジネスモデル特許をアピールし、競合に一定期間二の足を踏ませたことが、時系列の分析から見られます。
特許を使うなら、このようにビジネスにどうレバレッジをかけるのか、は意識すべきポイントです。
特許を取るタイミング
権利期間は基本的に出願から20年になります。
検討すべきポイントは、時間軸です。
20年という時間と、技術が社会実装されるまでの時間を考えて妥当かどうかや、ファイナンスによって実装時間軸が変わりうることをどう考えるかを考慮して、どのタイミングで特許を取るのが良いのかを考える必要があります。
また、最初から海外進出を考えている場合、国内出願から1年以内に海外に出願をしなければなりません。日本国の特許出願の際にあらかじめ海外進出するかどうかも考慮が必要です。
特許についてのtips
急に出さなければいけないときは『スーパー早期審査』というものがありますし、
出願後に内容を変更したい場合は『国内優先』や『分割出願』、取り下げ、再出願も可能です。
詳細は弁理士さんと相談していただきたいですが、こういう手法があるということは覚えておいてもよいかと思います。
何を出願して何を出願しないか
この論点は悩まれる方が多いですが、意外とシンプルな問題です。
ポイントは主に2つです。
権利行使をする際に、侵害しているかわかるかどうか─侵害発見の容易性といいますが、こちらを検討されるとよいでしょう。それはリバースエンジニアリングをしたら技術の内容がわかるのかどうかもポイントです。
リバースエンジニアリングをしてわからないものを権利化してもあまり意味はないかもしれません。
そして、最も大事なのは経営戦略です。経営戦略上の用途を確認することは大変重要です。
コマーシャリゼーションが大事な理由
上記の事例を見てください。これははたしてめでたしめでたしでしょうか?
A社には長年の研究にかけたコストがあります。
一方B社の思い付きのビジネスモデル特許はA社よりコストが低いはずです。圧倒的にROIが違います。
如何にコマーシャリゼーションを意識しながらインベンションをしていくことが大事かの例として紹介しました。
大企業との協業前にすべきこと
オープンイノベーションという文脈で大企業と協業したり、共同開発したりする際に上記のトライアングルを意識しましょう。意識が抜けがちなのが契約です。未だに多くのスタートアップさんは、平等な契約や有利な契約が結べてないことが多いと弁護士の先生からもよく聞きます。大手企業と協業する場合は必ず契約については確認しましょう。
大手企業との協業などで典型的に出てくるのが上記です。
留意すべきポイントをご紹介します。
<NDA>
最も重要なのは共同研究開発やライセンスの相手としてふさわしいかどうかです。
相手の反応や態度の見極めはされた方が良いでしょう。今後パートナーとしてふさわしいかどうか、
例えば条項の修正事項に応じない、過剰な条件が多いなどの態度で確認できます。
<PoC/FS>
成果物とか開発行為や開発結果の引き渡しについては合意しないのが原則です。
しかしながら、成果物の引き渡しが前提になっている契約も存在しますので、書面はよく確認しましょう。
<共同研究開発>
成果物の共有が最も重要です。
国内の法律上、知的財産(成果物)を共有してしまうと、
当該知的財産に係る特許出願は共同でないと出願できない、というのがデフォルトです。
また、当該特許権を第三者へライセンスしたくても、持分譲渡をしたくても、
共有者の同意がいちいち必要となります。共有知財は共有者の同意が必要という足かせが発生してしまうのです。
共有リスクに対する対処法の例です。
共有が予定される場合には、上記の条項を追加しておくとよいでしょう。
<BGIPとFGIP>
BGIPは当事者が以前から所有していた、或いは当該研究とは無関係に取得した知的財産です。
FGIPは当事者が当該案件の実施により得た知的財産権です。この2点を明確に分けておかないと、BGIPがなければ実施できないFGIPなどが使えない問題が生じることもあります。そのため、BGIPへの配慮が必要です。
特にライセンサー側はFGIPとの区別をはっきりさせておかないと何がBGIPで何がFGIPなのかわからなくなるのでリスト化など視覚化しておくと良いでしょう。ライセンシー側は、FGIPを実施するにあたり、BGIPの範囲として十分か、やそのBGIPは、ライセンサー側が単独で実施できるBGIPなのかどうか、を確認したほうが良いでしょう(ライセンサーが、他社と共有のBGIPの場合、ライセンサー単独の許諾では当該BGIPの実施が出来ないため)。
改良発明について
ライセンサー側がスタートアップで、大手企業にライセンスした場合、大手企業は特許権をベースに大量に改良発明をしてしまう可能性があります。
そのため、身動きが取れなくなるパターンになる可能性もあります。改良発明については双方無償ライセンスにするというような条項を盛り込むなどの対応が必要となります。
大学発ベンチャーの特許譲渡
このテーマについては悩まれている方も多いのですが、日本取引所のグロース市場における新規上場ガイドブックのQ53に回答が掲載されています。
上場に際しては原則として当該知的財産権を保有先から譲り受け、自社で保有することが望まれます。と記載されておりますが、なかなか困難であるという想定があります。その場合は、専用実施権の付与を受けることにより、申請会社が排他的に当該知的財産権を利用でき、また申請会社が特許侵害に対抗できる契約になっているかを確認しましょうと書いています。
つまり、上場時になにを求められているかというと、権利譲渡を受けるか、専用実施権を受けるか、の二択です。ただ、「専用実施権」は日本のみの制度になるので、海外については別の契約が求められる場合もあります。
質疑応答
Q:AIのアルゴリズムがなんらかのビジネスモデルと結びついていない場合は取らない方がいいのでしょうか。取った場合、VCとの出資が有利に進むのですが、ご意見をいただきたいです。
A:取らないでください。アルゴリズムは特許を取得しても意味がありません。
Q:権利譲渡と専用実施権で専用実施権が良いと思われる理由はなんでしょうか。
A:理由は2つあります。1点目は大学発ベンチャーとして起業される場合、大学にライセンスフィーなどでキャッシュが入ることです。大学に恩返しをすることにもなりますし、新たな研究開発が生まれる可能性もあるのでと良いと思いますし、スタートアップ側としてもまとまったお金で買い取る(譲渡を受ける)よりも、ライセンスフィーの方が財務上助かりますね。
2点目は、専用実施権だとスタートアップが仮に失敗しても、大学がその権利を再活用できるという点です。スタートアップに権利譲渡して失敗した際、その権利が戻ってこない可能性がありますが、専用実施権であれば、権利期間が残っていれば、再び他のスタートアップに渡して活用いただける可能性もあると思います。