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研究・技術開発を社内で事業化にするためにはどうしたら良いのか? ~社内起業編~

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本イベントでは研究・技術開発を事業化する際に必要なことを、支援の現場で得た実践知を交えて、株式会社ゼロワンブースターの合田ジョージさんに語って頂きました。簡単に概要を纏めましたので、気軽にご一読いただければ幸いです。

起業家プロフィール

株式会社ゼロワンブースター
URL: https://01booster.co.jp/

合田 ジョージ氏

合田 ジョージ氏/共同代表・取締役
MBA、理工学修士。東芝の重電系研究所・設計、国際アライアンスや海外製造によるデザイン家電の商品企画。村田製作所にて、北米およびMotorolaの通信デバイス技術営業後、通信分野の全社戦略に携わる。スマートフォン広告のNobot社のマーケティングや海外展開を指揮、KDDIグループによる買収後には、M&Aの調整、グループ子会社の海外戦略部部長。現在は01Boosterにて事業創造アクセラレーターをアジアで展開中。

技術開発を社内で事業化している例

技術開発を社内で事業化している例として、リコー様の事業を2つご紹介します。
まず、3Dコンテンツを全方位立体映像として現実空間に映し出せる投影装置を開発し、2021年3月に「WARPE(ワープイー)」ブランドとして事業化しています。

WARPE(ワープイー)

(出典:RICOH ニュースリリース「リコー、現実空間に全方位映像を映し出せる投影装置を開発~デジタルサイネージ用途で、「WARPE」ブランドとして市場探索を開始~」 https://jp.ricoh.com/release/2021/0308_2

2つ目に、オイルペイントやテキスタイル、木目、革など様々な表現が可能な立体化プリント技術を用いて、アートブランド「StareReap(ステアリープ)」を開始しました。

StareReap(ステアリープ)

(出典:StareReap https://starereap.ricoh.co.jp/

このような技術開発から、社内事業化するにはコツがあります。

社内起業の前提として

社内起業する際の前提として2点押さえておきたいポイントがあります。

1つ目に、社内起業は0-1型ではなく既存事業と関連したアイデア・技術から繋がる事業になるということです。
起業と社内起業を同じに考えられることがしばしばありますが、そもそも社内起業は0-1型なのでしょうか。社内起業の例として3MのポストイットやSONY PlayStation, Facebookの「いいね」、Appleのマッキントッシュがあります。3Mはもともと接着剤の事業を行っていましたが研究員が偶然非常に弱い接着剤をつくりだしてしまい、その弱い接着剤を本の栞に応用できないかと思いつき事業化されていきました。そのためポストイット事業は0-1型ではないと考えます。SONYやFacebook, Appleの例でも同様で、既存の事業と関連したアイデア・技術から社内起業に繋がっています。

社内起業は構築型・構造型イノベーション

(図1)

社内起業は図1でいう構築型・構造の分類になります。例えば、トヨタ自動車様は、トヨタ紡織様の生地や繊維を作る機械技術を自動車に転用しています。このように、市場は別でも技術を転用できるというケースが構築型・構造型です。技術もなく、市場も違う0-1型で社内起業をするのは難しいといえます。

2つ目は、会社の主軸に技術を置くべきではないという点です。例えば、かつて世界最大の写真用品メーカーだったEastman Kodak Company(以下Kodak)様は、技術への過剰適応により倒産したといえます。
Kodak様は優れたフィルムの技術をもち、写真フィルム事業で大きな成功を遂げていましたが、2000年代以降の携帯電話やスマートフォンの普及に伴うフィルム市場の急激な衰退により2012年に倒産しました。この例から技術を会社の主軸に置くべきではないということがわかります。

イノベーション発生場所の変化

もともとイノベーションは大企業が引っ張っていましたが、現在は大企業よりもスタートアップ起業がイノベーションを起こす時代になってきています。大企業がイノベーションを起こせない時代において、0-1型の社内起業は難しいです。
また、会社の軸を変える場合には、リクルート様のようにM&Aで買収した企業に寄せていくような方法を取ります。そのため「社内起業で会社の軸を変える」と考えている場合には、一度考え直す必要があります。

社内で事業を興すために必要な要素

社内で事業を興すために必要な要素はいくつかあります。もちろん社内起業のリーダーに事業スキルセットがあるかどうかは重要ですが、同じくらい環境要素が大きく影響します。会社の仕組みとして人事制度と企業文化が整っている必要があります。事業を起こす人にインセンティブがあるか、社内起業をするシステムがあるか、それを許す社内文化があるかどうかが重要です。これらが揃っていないと、社内起業はうまくいきません。また、それらに加えて、優れた社内起業スキームが必要です。

「社内起業」と「起業」は異なる

今回は「起業」ではなく「社内起業」の話をします。
社内起業というと、起業の文脈でイーロン・マスクやスティーブ・ジョブズ、マーク・ザッカーバーグを真似するように、語られることがあると思います。ですが、彼らはあくまでも起業家であり、会社に雇われる勤め人ではないため、ミスリードと考えます。いわゆる起業家像と、社内起業家像は異なるためです。

起業と社内起業の違い

ここから起業と社内起業の違いについてご説明させて頂きます。

起業は起業家に「これをやりたい」という意思があり、市場機会に応じて動くケースが多いのに対し、社内起業は競合他社との差別化など、会社の存在意義を強めるために行うケースが多いです。また、起業は使えるリソースが小さいため外部委託することが多いのに対し、社内起業は使えるリソースが多いです。起業はメンバーの人事権を持っていて、巻き込み力が強いのに対して、社内起業ではリーダーがメンバーの人事権を持っていないケースが多く、巻き込み能力が低いです。
起業と社内起業にはこのような違いがあるため、異なるものと考えるべきです。

社内起業には2つのパターンがあります。

2つの社内起業パターン

パターンAは、社内起業家にやりたいことがあるケースです。この場合のほとんどが、最初は事業モデルが小さいです。そのため会社のリソースを活用して事業を大きくできるかどうかが重要になります。もし会社で実現できない場合には起業をおすすめします。

パターンBは一般の企業でよくあるケースです。パターンAとは違い内発的動機ではなく市場から考えるパターンです。技術を用いてなんとかしたいと思っていても、市場をなんとかしたいとは思っていないことが多々あります。市場にニーズがない場合には何もできなくなってしまうため、技術を用いて社会をどう変えたいかを考えることが重要です。

社内起業のTips

まず、社内で興す事業について、相手に伝わるように説明できるかどうかが重要です。
特に、今までなかったような事業を相手に説明するときには、うまく説明できないとどれだけいいビジネスでも採用されません。経営者・既存事業部・自身にとって、この事業がどういう意味を持つのかを理解し、説明できるようにしましょう。

次に、技術者、経営企画、マーケティング、営業と組むことが必要です。例えば技術者だけで社内起業することは、ピッチャーだけで野球に挑むようなものです。

イノベーションに必要な要素

社内起業において、発明と同じくらい商業化が重要です。某コンビニのコ―ヒーは、年間11億杯も飲まれていますが、どれだけ手軽に美味しいコーヒーを淹れる技術があっても、多くの人が手に取りやすい場所に置き、手に取りやすい価格設定にしなければ、11億杯も売れません。技術だけでなく、商品化が重要なため、経営企画やマーケティング、営業と組み事業計画を考える必要があります。

次に、価値を提供したい相手が誰で、その対象の困りごとや課題はなにか把握しましょう。また、同じことを他社にできるかどうか、他社に対する強みや差別化ポイントを明確にすることが重要です。優れた技術を持っていても既に顧客や他社が課題を解決できていたら需要はありません。

対象領域の魅力を確認しましょう。市場の伸び率により、その事業の成長性も変わってきます。
例えばEdTech(エデュケーションテクノロジー)の事業を、日本とインドのどちらで展開するか考える場合、日本は少子高齢化が進んでおり、インドは人口が増えているため、インドで展開する方が事業の成長が見込めます。

現時点で事業として誰からお金を取る予定でしょうか。具体的に他の類似サービスをマネタイズして考えてみましょう。

最後にベンチマークする製品/サービスを調べてみましょう。最近では、飛行機の競合がZoomと言われているように、全く別のサービスでも顧客を取り合う場合がありますので、ぜひ時間をかけて考えてみてください。

損益上の問題

社内起業は、利益をとりながら事業を成長させていく、一般的なグロース・スケールモデルが望ましいと考えます。大体の企業では2年で黒字化しなければ、事業が潰されてしまう場合が多いため、基礎研究のように5年もかかるものは非現実的です。

社内起業の場合の損益的な戦略

社内起業の黒字化に2年以上かけることが難しいのに対し、PMF(プロダクトマーケットフィット)に到達するには3年かかると言われています。例えば、SaaSの事業を行っている会社なら、2年間はSaaSのコンサルティングの事業を行い、一時的に黒字にし、少しずつコンサル事業を減らして、SaaSの事業にシフトしていくという方法があります。このように、社内起業を成功させるにはテクニックが必要です。社内起業は、売れることを証明できれば急加速するため、売れるまでの戦術が重要になります。

Q&A

―― 社内起業において、一人ではなく経営や営業、マーケティングなど様々なプロフェッショナルが必要ということは理解しました。ではどのようにして仲間を集めればいいでしょうか。

社内起業がうまく行っている企業では、チームアップやミートアップを年間100回以上行っています。1980年代は、仲間を口説く方法が主流でしたが、現在は、KPIなどで手伝うのが難しくなってきているため、仕組みとしてチームアップやミートアップを行わないと難しくなってきています。

以上、イベントレポートでした。この記事を通して皆様に何か実りがあれば幸いです。また、もしこのイベントに関してご質問がございましたらぜひ気兼ねなくK-NIC運営事務局へご連絡ください。最後までお読みいただきありがとうございました!

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01Booster Onlineに公開されているイベントのアーカイブ動画で、NTT西日本の及部さんに「なぜ今技術系の社内起業なのか」というテーマでお話いただいておりますので、ご興味ございましたらぜひご覧ください。
URL: https://www.youtube.com/watch?v=MdCNJpE8Xnk