研究・技術関係者に送る「エクスポネンシャル思考」 〜世界を変える考え方〜
2021年4月28日、「シンギュラリティ・ビジネス」や「エクスポネンシャル思考」の著者である齋藤和紀氏のオンラインイベントが開催されました。このイベントでは世界を大きく変えていく考え方、世界の動きに関して語っていただきました。簡単に概要を纏めましたので、気軽にご一読いただければ幸いです。
起業家プロフィール
エクスポネンシャル・ジャパン株式会社、株式会社アキュリアス
URL: https://www.kazunorisaito.com/
齋藤 和紀氏/代表取締役
元金融庁職員(企業開示課・国際会計基準IFRS・EDINET担当)、日立製作所、デルにて経営企画・データ分析、世界最大手石油化学メーカー、ダウ・ケミカルのグループ経理部長を務めた後、成長期にあるベンチャー企業の成長戦略や資金調達のサポートへ。戦略策定や事業開発から携わることによりシリコンバレーVCや事業会社などからの資金調達を数々成功させた財務経理のスペシャリスト。
また、エクスポネンシャル思考のプログラムやコンサルティング等を通して、企業の新規事業創造等のお手伝いも行っている。
GAFAの台頭と時代の変化 〜テクノロジの猛烈な進化スピード〜
2020年世界の時価総額ランキングにおいて、2005年時価総額トップの企業はMicrosoft以外入れ替わっており、うち6社がIT企業です。2020年トップであるAppleの時価総額は2005年トップのGeneral Electricの約5倍です。日本のトップを走るトヨタ(時価総額約27兆円)は手も足も出ません。今は既にGAFAがなければ世界経済は回らない時代になっています。15年前にこんな状況を誰が予測できたでしょうか。
去年の7月にテスラの時価総額がトヨタを逆転し、今日時点で70兆円を超えました。2020年のテスラの出荷台数はトヨタの10分の1と、出荷台数が少ないにもかかわらず時価総額が大幅に上回っています。テスラはオートパイロットの実装、ディーラーを介さずに売買、ビットコインでテスラ株を購入可能にする 等、トヨタ含む既存の会社が行っていないことをして評価されています。これは既存のやり方の継続が正しい訳ではなくなってきていることを象徴するような例です。
また、人工知能は2016年にポイントがあったといえます。2016年にDeep Mild Alpha GOが囲碁のトップ棋士に勝利しました。それまではAIの台頭には10年かかると言われていましたが、第三次AIブームと言われるようになりました。ですが、AIが人間に勝つ例は20年前すでに存在していました。チェスの世界では1997年にスパーコンピューターIBM Deep Blueがチェスの王者に勝ちました。その時に様々な分野の人々がAIの進化が人間の感覚よりも早いことに気づき始めました。2017年にDeep Mild Alpha GO ZeroがAI同士で学習し、もはや人間では歯が立たないレベルになりました。2018年Deep Mild Alpha GO ZeroはあらゆるボードゲームのAIに勝利するようになり、ボードゲームの業界で人がAIに勝つことができない時代に到達しました。
2016年の転換期までAIの台頭には10年かかると言われていたように、科学技術は人の想像を遥かに超えるスピードで進化しています。これを理解するための考え方がエクスポネンシャル(Exponential・指数関数的)思考です。
エクスポネンシャルであること
Exponentialとは「指数関数的」という意味の言葉です。倍々で進んでいくことを意味します。
例えば直進的に30歩進めば30mしか進みませんが、エクスポネンシャルに進めば地球を25周することができます。またドラえもんの秘密道具「バイバイン」という薬は、ふりかけたものが5分に一回倍に増えます。のび太くんは栗饅頭を永遠に食べられるように振りかけましたが、ドラえもんが来て焦ります。のび太くんは1時間で100個くらいになると思っていましたが、ドラえもんは1時間で約5000個に増え、2時間後に約1600万個、その15分後に約1億個を超えると言います。のび太くんはしずかちゃんやジャイアン、スネ夫を呼んで食べてもらいましたが最後に一個だけ残り、処分に困って宇宙に送りました。
つまり、人の脳はリニア(算術的)にしか将来を予測することができないのに対し、科学技術はほぼ全てがエクスポネンシャル(指数関数的)に進化しています。
エクスポネンシャルに進化するものの例は様々です。
例えば、コンピューターパワーの増加や世界のデータ量の増加、世界の通信量の増加や画像の総量の増加など。また、最近は新型コロナウイルスの影響で難しい状況ではありますがAirbnbのホスト数もその一つです。Uberのドライバー数、Facebookの従業員数も同様にエクスポネンシャルに増加しています。その他にも遺伝子編集の件数や電気自動車の普及、ソーラー発電のキャパシティも含まれます。
これらの例から分かるように、あらゆるものがエスクポネンシャルに進化しており、特にテクノロジーの進化は急激に加速しています。数年前、数十年前にエクスポネンシャルを理解していたら、今こんな社会になることを予測することができたと言えます。
“いままで”と“これから”は連続しない
あらゆるものがエクスポネンシャルに変化していくこれらの例から、物事をリニア(算術的)にしか予測できない人間にとって想像もつかない“これから”がやってくるといえます。
例えばmRNAのワクチンで人間の体を変えることでインフル・HIV・ニバウイルス等を完治できるようになったり、IPS細胞で臓器を簡単に作れるようになったりと、死が本当に来るかわからなくなってきています。
また、1つの企業で終身雇用というのが20世紀型の働き方でしたが、21世紀にはフリーランスが増えたり、一定以上の役職の人を業務委託にしたり、副業をやってもいいという企業が増えたりと多様化してきています。22世紀やその先は直線的には予測できないようなキャリア・組織のトランスフォーメーションが起こっていきます。
私はエクスポネンシャルに物事を考えて先手を打っていくお手伝いをさせて頂いています。その一つで「DXのすゝめ」を13のステップにしているのでご興味のある方はぜひお話ししましょう。
スタートアップ企業の皆様にお伝えしたいこと
これから新しい価値を創造する中でアイデア発想手法はいくつかありますが、特にこの4つが必要だと考えます。
まず、これはいける!という心証を形成することが重要です。スタートアップを支援する中でほとんどの会社がプランを説明しようとしますが、良い説明が採用されるのではなく、良い心証形成できたものが採用されます。良い心証形成に必要なことは内発的動機です。日本のエリートほど「I have a plan(計画があります)」や「I have a proposal(提案があります)」と説明しようとしますが、「I have a dream (夢があります)」から始めてください。
1963年のまだ通信すら整っていない時代にマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が何万人もの心を掴んだように、「I have a dream」には人を動かす力があります。ぜひ大企業の中では言えなかった夢を大きな声で語ってほしいと思います。
夢を考える際には、今まで制限・制約だと思っていたものを取り払ってみてください。制限・制約が我々の思い込みで、それによりあらゆる可能性が狭まっていたかもしれません。例えば大企業の中にいると限られた財源や予算の中でやりくりするのが常ですが、世の中にはお金が有り余っています。有り余っているお金をどのようにして引き寄せるかを考えていただきたいです。このように、もしあなたの手元に1000億円があったら、もしこれから100年生きるとしたら、仲間が1万人いたらやってみたいことは?とこれまで制限だと思っていたものを取り払って考えてみてください。
内発的動機の次にインプットと分析が必要になります。外的環境の変化のスピードを把握して頂きたいです。フィリップ・コトラー氏の外的環境の分析(PEST分析)ではPolitics(政治的要因), Economy(経済的要因), Society(社会的要因), Technology(技術的要因)の4つで分析しますが、特にTechnologyが物凄い速さで進化しています。またTechnologyは他の3要素(Politics, Economy, Society)を変えてしまう力があります。なので、Technologyを注視しておいてください。
次に組み合わせピースです。私が用意しているワークショップの一つを紹介します。
世界グランドチャレンジのカード、メガトレンドテクノロジーのカード12枚、社内のビッグデータのカードを用意し、各キーワードを勉強した上で、それらを組み合わせるとどういうアイデアが生まれるかディスカッションしていくというものです。
最後にアウトプットの練習を忘れないでください。アウトプットの仕方は様々ですが、重要なのは作って失敗することです。試行錯誤して失敗することを何度も繰り返すことで前に進んでいきます。
SpaceXは毎月爆発事故を起こしています。それもプログラムに組み込まれています。事故を起こし試行錯誤して解決し、学ぶことを繰り返しています。ぜひ彼らのように失敗を恐れずに沢山挑戦してください。
Q&A
――これからを生き抜くために行政、大企業、中小企業、ベンチャーはどのようにすればいいのでしょうか。
行政は危機意識を持っていますが、中で生きてきた人たちはなかなか変われません。そのため他の省庁との交流を持ったり、外部から人を入れたりして組織に別の風を入れることが重要です。大企業は昔に比べて柔軟になってきています。手を挙げた人にやらせてみることが重要です。ベンチャーはすでに挑戦を行っているため競走環境や資金が重要と考えます。日本の投資家が10億、20億を投資して10年間何も言わない等すればもっと一点突破する企業が出てくるのではないでしょうか。中小企業は経営者や事業を変えるなどして山を登り直すという方法をとれます。また、ファイナンスの勉強をして主軸の周辺事業を強化するのも方法の一つです。
――人のマッチングはキーではないでしょうか。
強制的に行うべきだと考えます。例えばトヨタ・NTTで半分以上経営者を交換しても経営は回るでしょうし、かなり学びがあると思います。また日本経済はかなり上向くと推測します。
以上、イベントレポートでした。この記事を通して皆様に何か実りがあれば幸いです。また、もしこのイベントに関してご質問がございましたらぜひ気兼ねなくK-NIC運営事務局へご連絡ください。最後までお読みいただきありがとうございました!
こちらの記事の内容はYoutubeでもご覧いただけます!