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商品企画の進め方 新規事業を成功に導く5つのポイント

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2020年11月26日、ソニーで商品企画を担当し、画期的な商品を数多く世に送り出してきた白神敬太氏のオンラインセミナーが開催されました。
技術を売り出すうえで、欠かせない要素の一つである商品企画。世に出したい技術はあるものの、商品やサービスへのアプローチ方法がわからないという方も多いのではないでしょうか。商品企画の失敗は、事業の立ち上げや継続に課題を残しかねません。企画を成功に導くためには、スピード感を持って全体像とその先を想定することが大切です。今回は白神氏がソニーで実際に手掛けた企画を例に、商品企画のプロセスやアイデアの作り方、失敗しない商品企画の進め方をお話しいただきました。

ゲスト

白神 敬太氏/株式会社プリミス代表 新規事業開発・商品企画コーチ×コンサルタント
ビジネスコーチ 銀座コーチングスクール横浜校 講師

ソニー株式会社にて、商品企画や新規事業開発に約25年従事する。「まだ世の中の誰もやっていない世界初か、他社よりダントツですごいモノだけを企画しろ!」という大曽根幸三氏(元ソニー副社長)の命のもと、ボールペンタイプのノックスライド式USBメモリーや監視カメラシステム、ヘルスケア事業など、幅広い分野で商品やサービス立上げをリード。携わったプロジェクトは100を超える。その経験を世に広く伝えるため、株式会社プリミスを設立。起業家の持っている潜在的なアイデアを引き出し、ともに考え立ち上げるコンサルティングを行っている。
https://primis.co.jp/

モデレーター

谷生 彩菜/K-NIC コミュニケーター

失敗から学ぶ、商品企画を成功へと導くヒント

白神さん:商品企画を成功に導くには、アイデアはもちろん大切ですが、先行して予測、対策をし、問題となる点をあらかじめ回避しながら進めていくことが大切です。企画の進め方、アイデアの出し方、トラブルへの対策、価値提供の方法など、わからないことがたくさんある方が多いのではないでしょうか。しかし、私が経験してきた数々の失敗の裏を返して、対策していけば、大きな失敗をすることはなくなるはずです。今回は確実に企画を進めるコツをお伝えします。

よくある失敗

よくある失敗例を5つほど挙げてみました。これらは全て私が経験した失敗です。

よくある失敗

一例として、他社に先を越されてしまった例をお話ししましょう。
ソニーが記録メディアの新規事業としてUSBメモリーを日本初で導入しようとしていた時の話です。当時、USBメモリーは海外で発売され始めたころで、日本にはそのサンプルが入ってきている程度でした。我々がこれを日本に初めて導入したいと言ったことに対して、当時の副社長から「分かった、すぐにやれ。ただ、1人が考えていることは100人が考えているんだ。半分のスケジュールでやれ!」と言われ、絶対に日本初で導入しようと多方面の協力を得てほぼ半分のスケジュールで導入したのですが、ほんの少しの差で他社に先を越されてしまいました。画期的な技術でない限り、既存のもの同士の組み合わせは考えている人がたくさんいます。幸い他社は海外品そのままの輸入で、我々はオリジナルデザインで導入したので売り上げにはつながったのですが、商品企画におけるスピード感は非常に重要ということを痛感しました。

失敗を避け、成功に導くための方法

下図はこうしたよくある失敗を避け、企画を成功に導くために大切な項目です。

成功に導くために

重要なのは、計画の全体とその先を想定しながら進めることです。企画の実務を進めているとついつい目先の仕事や立ち上げに一生懸命になりがちです。しかし、集中するあまりに全体や将来の構想に目が行き届かず、抜け漏れや手戻りが発生したり、売上げの想定が足りなかったり、後が続かず事業を継続できなくなったりします。
スピードを意識しつつ、全体を見渡したうえで、企画構想の段階でできる限り綿密な計画を立てる。そして、行動は柔軟にしていくという考え方が商品企画には必要になります。事業を立ち上げる方は、企画構想の初期段階に、ラフでも良いので売上げの規模感を確認し、中期計画まで立てておくと良いでしょう。

商品企画プロセスの全体像

白神さん:こういった数々の失敗経験をもとにプロセスとして確立した、素性の良い企画構想の立て方、さらに手戻りの少ない、つまり成功に導く企画推進の方法について具体的に解説していきます。
商品導入は、企画、開発・導入準備、販売開始と大きく3つに分けられますが、私は企画の部分をさらに3つに分けて考えていました。(下図、青枠の1~3)
今回は3つのうち、企画を成功させるために特に大切な1と2について詳しく解説します。

商品企画プロセスの全体像

1.前提の確認と設定

条件の確認

白神さん:企業内の企画では、会社の方針や条件、最終的に誰が企画の決定判断をするのか、ステークスホルダーはどういう意見を持っているのかを事前にしっかり確認しておく必要があります。これから事業を立ち上げる方は、関係者の期待や要望があるはずです。どちらも初期段階では明確になっていないことが多いので、その場合には企画側から「この条件で良いですか?」と確認しておくことが大切です。後からそうじゃなかった、聞いてなかったとならないようにしましょう。予算や体制、関係者からの制約や注意事項など、どのようなステップを踏んで進めていくのかを初期段階で固めて、きちんと議事録に残してドキュメント化しておくと良いでしょう。

ミッション・理念を定義する

早い段階でミッションや理念を定義しておくと、プロジェクトのパワーが増します。
事業を立ち上げることや商品をリリースすることは、あくまで手段です。手段も重要ですが、「自分たちがその技術でどういう世界を創りたいのか、どう世の中に貢献したいのか」という目的や想いが大切です。最初はどのようなプロジェクトでも少人数から始まります。関係者を増やしながらチームが大きくなっていくのに対して、ミッションや理念が文章化されていれば、チームの推進力に圧倒的に違いが出ます。そうなれば、事業や商品を世に出す時のパワーが変わり、ステークホルダーにも賛同が得られやすくなります。

ミッション・理念を定義する

もし皆さんが事業の導入や立ち上げ、売上げを向上し、シェアを上げるというところまでしかまだ考えられていないのであれば、社会にどう貢献していきたいのか、何のためにやっているのかということをぜひ文章化してください。

2.アイデアの立案

白神さん:アイデアは新規性が高ければ高いほど壁にぶち当たり、さらに世の中の誰もその解決策を持っていないため、自分たちで課題を突破していかなくてはなりません。企画の最初のアイデア発想だけでなく、そうしたトラブルや壁を乗り越えていくときの解決策も大切なアイデアです。そのようなアイデアをどう出していけば良いのか。その具体的なステップを解説します。

ジェームス・W・ヤングの5つのプロセス

私が実際にソニーで行ってきたアイデア発想のアプローチによく似ていると感じるのは、ジェームス・W・ヤング氏の方法です。

アイデアの作り方

まずはターゲットを定めて、関連する情報を集めるところから始めます。その情報を分析し、情報を組み合わせて考えます。スーパーアイデアマンはすぐに発想できるのかもしれませんが、私はそのようなタイプではなかったので、アイデアを発想するときはここから本当にずっと考えていました。歩いている時、お風呂に入っている時、寝ている時も常に考えていると、感度が高くなっているので、瞬間的にアイデアがひらめく瞬間が訪れます。そのアイデアを検証して形にしていくのです。ヤング氏も同じことを言っています。

アイデアが出ない時の白神流発想術

簡単なことのように聞こえますが、そう簡単にひらめかないから苦労しているわけですよね。ヤング氏もアイデアなんてすぐに浮かぶものではないと言っています。アイデアがなかなか出ない時のヒントに、私のやり方を参考にしてみてください。

アイデアが出ない時の白神流発想術

チームで行う場合にはブレーンストーミングを行います。それでも行き詰まったら、アプローチ方法を変えます。アプローチ方法を変えるフレームワーク「オズボーンのチェックリスト」などもあるので、参考にしてみてはいかがでしょうか。
誰かに話してみるというのも手です。人に話すと、オートクライン効果という自分の声を聞くことによって思考が整理される効果が期待できます。否定的な意見の人ではなく、ポジティブな人を見つけて話してください。
また、アイデアにならなくても、なりそうな小さな種を見つけられたら、それをヒアリングして形にしていくのもアプローチの1つです。24時間、1週間くらい考え続ければ、アイデアに対する感度が高くなっているので、ふとした瞬間にヒントが生まれ、アイデアの種は必ず生まれてきます。そう信じて考え続けることです。さらには、自分でアイデアを出さないとダメだと思っている人がいますが、アイデア発想が得意な人が周りにいるなら、その人たちの力を借りるのも良い手です。企画マンはアイデアを具体的な商品やサービスに立ち上げるのが仕事です。自分だけでアイデアを出さなくても、アイデア発想が得意な人の協力で小さな種をたくさん見つけ、その中からいずれかを採用し、立ち上げていくのも良いでしょう。

事例:USBメモリーのシェアを上げたアイデア

USBメモリーの事業でソニーのシェアが落ちてしまい、次のモデルで必ずシェアを上げなくてはならないプロジェクトに企画リーダーとして召集された時のことです。USBメモリーという小物に対して、何か決定的な差別化を見つけるのは本当に困難を極めました。そこで私たちは、フォーカスグループインタビューでユーザー座談会を開いてみました。インタビューでたわいもない話から発見されたキーワードは2つ。本体を紛失した際の情報漏洩と、付属のキャップをなくしてしまうことでした。
これをもとにブレーンストーミングをして、スケッチやモックアップサンプルを20種類近く作りました。情報漏洩が一番問題だろうと考え、鍵メーカーとダイヤルつきのUSBメモリーサンプルを作ったりしましたが、反応はイマイチ。一方で、キャップをなくさないために考えたスライド式の構造が好評ということがわかり、初めての構造に試行錯誤しながら開発し、お陰さまでよく売れました。
このスライド式のアイデアもすぐに出てきたものではなく、ずっと考え続ける日々の中で、ふと手元で目に留まったボールペンの構造がヒントになり、アイデアが形になったのです。

谷生:商品企画においては、何度もヒアリングすることが重要でしょうか。

白神さん:ヒアリングは大切なことですが、ヒアリングしたものをそのまま作っても売れないことがあるので注意が必要です。ユーザーは「今」を語ります。ソニーがかつてウォークマンを作った時も、誰も欲しいとは言わず、誰も売れるとは言いませんでした。新規性が高いほど、ヒアリングの意味はなくなっていくかもしれません。

谷生:ヒアリングする相手の選択について、白神さんはどうお考えですか。

白神さん:何が知りたいかによると思います。現状に対してヒントが欲しいならば、現在一番利用しているユーザーです。ちゃんとお金を出して利用してくれている人が良いと思います。未来のアイデアが欲しいのであれば、少し先を見ることができる人です。しかし、どのように形にしてどれを進めるか、最後は自分の判断だと思います。

差別化へのアプローチ

白神さん:商品企画において、差別化は欠かせない要素の1つです。よく「3つの『ワン』を狙え!」などと言われますよね。

3つの『ワン』を狙え!

「ナンバーワン」は他社よりもダントツですごいもの。資金力や競争力のある大手企業がとるアプローチです。「オンリーワン」はよく言われる戦略ですが、良い市場ならば他社が参入してきます。「ファーストワン」は、ソニーで私が言われていた世界初や業界初ということです。特に技術や商品はファーストワンを狙えと言われます。世の中にない、一番新しいものを狙うのは戦略として効果的です。

谷生:自分のサービスをファーストワンと言い切るためには、マーケットリサーチが必要ですよね。しかし、小さな企業のリサーチには限界があるのではないでしょうか。白神さんは、どの程度ならファーストワンと言い切ってPRして良いと思いますか。

白神さん:出来る限り調べた方が良いです。小さな企業でもその分野にはある程度精通していると思うので、有識者の意見を聞いたり今はネットでも調査できるはずです。 確実でない場合は、言い方を調整したり、リスク想定しておきましょう。「自社調べ」「当社調べ」としている企業もあります。

商品企画者が狙う時間軸 トレンドは作るもの?

白神さん:企画を進めていくにあたって、どこの時期を狙って企画を進めるのかは重要なポイントになります。今の世界を見て、違いや差別化できるポイントを探してしまいがちですが、自分たちが商品を出し、事業を立ち上げていくのは早くても半年後、長いと数年かかる場合もあります。そのリリース時期をしっかり狙うことが大切です。一生懸命立ち上げたのに、リリースした時に世の中が変わっていたり、ライバルに先を越されてしまうこともあります。さらに商品にはライフタイムがあるので、その先の未来を想像しながら狙っていかなければ、リリースしてもすぐに陳腐化してしまうこともあります。
「トレンドを読む」「時代を読む」という言葉がありますが、読んでいては遅い。トレンドは自分たちで作ってしまおう!くらいの勢いでやった方が良いです。
周りからアドバイスを受ける場合にも、ほとんどの人は今を見て話しています。ヒアリングする際には、相手がどこを見てアドバイスしてくれているのかを見極めることが大切です。

狙う時間軸

谷生:トレンドを作る時に、アイデアのシーズが未来の社会にどういった価値を与えるのかを想像できる方はあまりいないと思います。実際に白神さんはどういう方たちと話してきたのでしょうか。

白神さん:企画者やデザイナーなど、クリエイティブな経験がある人は、先を見ながら話せると思いますが、そういった人材が周りにいないようであれば、機密情報を話せる範囲で、そういう感覚をもった知人や有識者とブレーンストーミングをするのも良いと思います。そこから最終的には自分での見極めですね。

企画構想にまとめる

白神さん:アイデアの種が出たら、企画構想にまとめていきます。企画構想に必要な要素は下図のようなことがあります。新規事業の場合は、ビジネスモデルを作って、それをもとに価格案と売上げの規模を早い段階で試算した方が良いでしょう。また、口頭説明や資料だけでなく、簡単で良いのでイメージモックやプロトタイプを早めに作るのも大切です。

顧客のベネフィットを定義する

顧客の真のベネフィットを定義する

企画構想では、顧客の真の恩恵や利益がどこにあるかを定義しておくことが大切です。しかし、顧客の真のベネフィットを定義するのは簡単なことではありません。メリットや特長ではなく、ベネフィットでなくてはならないからです。
先のUSBメモリーの例では、付属のキャップをなくしてしまうことがユーザーの意見でした。しかし、実際の使用ではキャップがなくなっても困らないはずと私も思っていました。しかし、ヒアリングしていくうちに、この意見が出たのは「なくなることが嫌」という心理的な思いからだったことがわかりました。ここに「なくさない安心感」という情緒的なベネフィットがあったのです。

ソニーUSBメモリーの事例

さらに、実際に作った商品では、なくさない安心感のほかに、片手で操作できることやすばやく端子が出せることなど、様々なベネフィットを感じてもらえることがわかりました。顧客のベネフィットは一つではありません。思わぬところが顧客のベネフィットにつながることもあります。自分たちの顧客をしっかり想定して、顧客のメリットだけでなく、その先のベネフィットを定義しましょう。
また、ユーザーだけでなくステークホルダーや販売パートナーなど関係者のベネフィットもしっかり定義しましょう。このとき、売り上げや利益だけではない、関係者のブランディングや社会貢献性に結び付くとさらに良くなります。それらを感じてもらえると、心からの協力が得られ、プロジェクト全体が同じ方向を向いて動くことができるようになります。

売上げ規模感を試算する

ある程度の構想ができたら、売上げの規模感を試算することをおすすめします。試算することで、企画の優先順位が明確になります。初期段階で中期的な想定をすることによって、不足部分の対策が進むため、企画が進行してから想定と違っていたということにはなりにくくなります。また、試算する際に最高に上手くいった場合(heaven)と最低の場合(hell)を想定しておけば、大体間に落ち着くと考えられます。

谷生:新規性の高い企画の場合、市場データがないため試算しづらいのではないでしょうか。

白神さん:よく聞かれる点ですが、未来の売上げ想定に、絶対的な正解はありませんし、企画構想の段階ではそこまで必要ありません。規模感が分かれば十分です。市場にデータがなく、試算の糸口がない場合にはフェルミ推定を2~3のアプローチで行ってみると良いでしょう。

フェルミ推定

イメージモック、MVPの作成

「手のひらサイズ」を言葉や資料で説明されるよりも、実際に「手のひらサイズの物」を手に取ってもらった方が、実感しやすいと思いませんか。大きさがわかる程度のモックでも、会議や協力依頼の際に説得力を増す効果があります。ユーザーインターフェースの場合には、機能の価値がわかるMVP(Minimum Value Product)があると良いでしょう。ヒアリングには最低限のサンプルを持って行くことが必須です。

ソニーでの「モックアップ、プロトタイプ」の事例

ソニーでの「モックアップ、プロトタイプ」の事例

例えば、上図中央は私が技術マーケティングのマネージャーを担当していた時の4K監視カメラのプロトタイプです。まだ開発途中の段階だったのですが、「4K監視カメラはソニー」という確固たる地位を築きたいと、展示会において世界で初めてプロトタイプを展示しました。その際、展示会で4Kによる監視カメラとしてのメリットを資料や口頭でいくら説明しても説得力がないので、会場の映像を4Kで映して展示しました。社内では開発途中の展示に対して反対意見も多かったのですが、実際に見た方に4Kで得られる世界をしっかり理解いただけたため、その後の問い合わせにつながりました。

そのほかの早期に想定しておいた方が良い点

企画構想における、顧客のベネフィット、売上げ規模感の試算、イメージモックの重要性についてお伝えしてきました。私の経験から、そのほかにも早期に想定しておいた方が良い点をまとめたものが下図です。

そのほかの早期に想定しておいた方が良い点

すぐにすべてを整理できなくても、まず項目を挙げておくことが重要です。後から大きな抜けが出てくることが、企画のスピードを落とす一番の原因になります。そのために整理が必要な項目をまずピックアップしておきます。さらに想定されるリスクを洗い出して、粗くても良いので対策案まで練っておくこと。そうすれば、何が起こっても想定範囲内だとして、右往左往しなくて済みます。

商品企画を成功に導くためには?

白神さん:これまでの内容を踏まえて、新規事業開発や商品企画を成功に導くためのポイントを5つにまとめました。

商品企画を成功に導くためには

最後に、商品企画において大切にするべきはとにかくスピードです。スピードがあれば、多少の失敗もリカバーできます。そのためにも、よくある失敗から見えてきた避けるべき点や構想におけるチェックポイントなど、意識するべき項目を挙げ、整理しながら進めていく。それがスピードを上げていくコツ、ひいては商品企画を成功に導くコツなのです。