BtoBマーケティングの新たな戦略とは? オンライン化で見えた成功の可能性
2020年10月9日、株式会社日刊工業新聞社と神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)の担当者が、BtoBマーケティングについて語るオンラインセミナーが開催されました。
コロナ禍で対面の営業が困難となった今、BtoBマーケティングでは、セールステックやオンライン展示会を取り入れる流れが加速しています。この変化に、どう対応すればよいかわからず、営業活動に悩んでいる中小企業も多いのではないでしょうか。
新常態のBtoBマーケティング戦略では、価値提案の見直しと自社の強みをどう見せるかが重要といいます。セミナーの第一部ではBtoBマーケティングの現状とこれからについて、第二部ではオンライン展示会のイロハをトークセッション形式でお話しいただきました。
ゲスト
明 豊氏/株式会社 日刊工業新聞社 デジタルメディア局 局長
1991年に日刊工業新聞社へ入社。記者として食品・機械・通産省(当時)・家電・半導体業界を担当。自動車、総合電機面のキャップを経て、2018年4月にデジタルメディア局長に就任した。2020年9月より執行役員を務めている。
石川 暁史氏/株式会社 日刊工業新聞社 デジタルメディア局 部長
1998年に日刊工業新聞社へ入社。販売局、広告局、イベント事業部を経て、2015年に横浜総局、2017年に相模支局に配属。2019年4月よりメトロガイド編集室長となり、2020年4月からデジタルメディア局部長に就任した。
伊東 圭昌氏/(地独)神奈川県立産業技術総合研究所(略称:KISTEC) 事業化支援部 企画支援課 事業化促進グループリーダー
1996 年に神奈川県産業技術総合研究所(現KISTEC)に入庁。生産システムに関連する研究に従事する。神奈川県商工労働局を経て、2011年 6月より神奈川県産業技術センターにて、機械振動に関する研究、中小企業支援、コーディネーション等に携わっている。
モデレーター
丸山 大輔/K-NIC コミュニケーター
https://www.k-nic.jp/wp202410/supportor/111/
メディア業界で起きているBotBマーケティング戦略の変化
明氏:メディア業界の変化で大きなポイントは「メディアとコンテンツの主従関係が変化してきている」ということです。今、メディア業界は分岐点にあります。
これまでのメディアの歴史を振り返ると、新しいテクノロジーが常に新しいメディアを生んできました。2015年あたりからはスマートフォンの普及によるトレンド変化が起き、新しい技術である「デジタル」「ソーシャル」「モバイル」という、3つのテクノロジーが台頭しました。それに合わせて、メディア業界や企業のプロモーション戦略も変わり始めています。
顕著に表れているのは、マスメディアの影響力の低下です。今まではテレビCMや新聞広告を打てばそれなりの反響はありました。しかし、マス向けのプロモーションは企業からすると費用対効果が見えづらいモデルでもあります。一方、デジタルのプロモーションであれば、データとして結果は明らかです。InstagramやFacebookなどのSNSを活用し、ターゲットに向けて費用をかけた方が確実なプロモーションになりますし、リード(見込み客)を獲得するところもわかりやすいですよね。このように、強いマスメディアがコンテンツを内包する時代から、強いコンテンツがメディアを選ぶ時代に変わってきているのです。
はじめに変わったのはBtoCの広告でした。それによってマスメディアの広告費はマイナストレンドとなり、代わってデジタル向けの広告分野が徐々に上がってきています。BtoCの流れを受け、BtoB領域でもデジタルマーケティングを行う動きが強まっていたところ、コロナ禍でその勢いが一層強くなったといえます。
これからのBtoBマーケティングのトレンド
明氏:これからのBtoBマーケティングには、2つのトレンドがあると考えています。
①セールステック
セールステック(Sales Tech)は、営業活動にテクノロジーを活用することで効率化し、向上を図るものです。一般的にいわれるマーケティングオートメーション(MA)や顧客関係管理ツール(CRM)などがあります。今後はオンラインも含めて、データを使って企業と直接つながる方向に進んでいくでしょう。しかし、MAやCRMを導入すれば結果が出るというわけではありません。高度なツールを導入せずともExcel管理でデータを使うこともできるので、企業に合ったステップを踏んでいくべきだと思います。
また、これからはオンラインとオフラインの融合は欠かせません。テクノロジーだけに依存するのではなく、バランスが重要と考えます。企業が意外と陥りがちなのは、リアルで競争力があるものをデジタル上にあげてしまうことです。例えば、コンビニがネット販売を推進した時期がありましたが、これは上手くいきませんでした。コンビニの場合は、リアルの店舗に価値があったからです。単純にデジタル化すればいいというわけではありません。競争力や自分たちの価値がどこにあるかを考えて、最終的な収益ポイントを考えた方がよいでしょう。
②インサイドセールス
インサイドセールスは、直接対面せずとも会社に居ながらマーケティング技術を使って企業とコンタクトを取るものです。アメリカ発のもので、原型はテレアポです。インサイドセールスとテレアポの違いは、インサイドセールスの方がリードの獲得よりも「見込み顧客の育成」を目的に含んでいることにあります。単に売るのではなく、その商材を理解してもらい、いかにファンにしていくかが重要です。今後は個人のスキル以外にも、セールステックを活用して確度を高く行っていく必要があると思います。
これからの営業マンの在り方
こうしたトレンドのなかで、経験と勘で動いてきた営業マンは徐々に淘汰されると考えています。実際に、営業する側・される側を対象としたアンケートでは、双方が「無駄な営業」を感じているそうです。営業マンの数も10~20年の期間で見た際には100万人ほど減少しています。この背景には、AmazonをはじめとするECサイトが商品をダイレクトに販売したことがあります。商社や販売代理店の営業マンは必要とされなくなりました。BtoB領域においても、モノタロウなどAmazonのような存在が出始めているので、この流れは進んでいくと考えられます。
営業職自体がなくなると考えると、営業マンが生き残る道は「セールステックを使いこなして自らの成果を底上げする」「セールステックを使いこなすチームのディレクターになる」ことではないでしょうか。営業職から離れ、自らが戦略を立てて新しいポジションを築いていく。この選択が今後の営業マンの道筋だと思います。
一方で、営業マンには課題の発見力やヒアリング力、対人コミュニケーション力が長けている人たちなので、経営者にも向いていると思っています。中小企業の場合には、自社の経営者とも関係性が近いと思うので、自分が会社を代表しているという意識をどこまで持って仕事ができるかが重要です。これまでのスキルは色々なことに役立っていくと思います。
BtoBのデジタルマーケティングで中小企業が取り組むべきポイント
明氏:大企業も中小企業も、これから見込み客に向けてビジネスをしていく場合には、顧客のデータをどう取るかが重要になります。その際、顧客(ユーザー)をIDによって判別しますが、ユーザーには囲い込まれたくないという心理があります。このハードルをいかに下げるかがポイントです。
また、ECサイトでは、顧客がサイトに3回アクセスする間に顧客の固定化ができないと、それ以降はほぼ顧客にならないというデータがあります。いかに3回以内に顧客にリーチし、プロモーションを作っていけるかが大切です。
そのほかにも、近年は低コストで制作できる動画広告の勢いが増しており、利用するBtoB企業も増えてきました。機械製品であれば、動画で見せた方が伝わりやすい商材やソリューションもあるので、動画を有効に使っていくのもポイントだと思います。
ウィズコロナ、アフターコロナでは中小企業が有利な時代に
明氏:大企業は大きな予算やリソースを持っているし、マーケティングやプロモーションに有利だと思われていますが、私はむしろアフターコロナやウィズコロナでは、中小企業が有利な時代になると思っています。大企業になるほど、事業リスクや採用コストなどが大きくなり、売上成長においてリスク要因が顕在化してきます。一方、中小企業は自分たちの会社をこれからの時代においてどうしたいかと考えたときに、必ずしも売上成長だけがすべてではないのではないでしょうか。利益成長は経営者の思い込みでKPIが作られていることがあります。一度立ち返って「自分が社会にどういう価値を提供したいか」を思うと、必ずしも売上を伸ばすことが会社の最大目標ではないということは十分に考えられます。
ある課題に直面すると、どうしたらその課題を解決できるかというところに目が行きがちですが、課題設定自体を見直し、逆算した解決策を考えるアプローチが重要だと思います。
注目が集まる「オンライン展示会」とは 費用感や有効性
第二部では、株式会社日刊工業新聞社の石川氏と神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)の伊東氏によるトークセッションが行われました。
左から伊東氏、石川氏、丸山
丸山:コロナ禍によって会場を使った展示会が難しくなっているなかで「オンライン展示会」というものが出てきました。どういった特徴があるのでしょうか。
石川氏:オンライン展示会は、インターネット上で行われる展示会です。特設サイト上に、写真や文字などで製品を展示します。日刊工業新聞が開催する展示会では、リアル展示会のような三次元的で立体感のある方式を採用しています。
ブースイメージ
画面上で商品を様々な角度から見られるサービスも当社の特徴です。リアル展示会でも部品などはあらゆる角度から確認されていると思いますが、当社では商品を360°カメラで撮影してデータ加工することで、その視点を再現しています。
360°で製品を見ることができる
オンライン展示会自体がまだ世に出てきたばかりなので、これからバリエーションが増えていくと予想されます。しかし、今のところは各社横並びです。ブースに来られた方のログを取る、誰が来訪しているのかをリアルタイムで見られるなど、オンラインならではのサービスも展開されています。実際の商品に触れることはできませんが、機能としてはリアルと遜色ありません。
丸山:リアルと比較して、費用感にはどの程度の差があるのでしょうか。
石川氏:まず、展示会にかかる費用としては、出展料・装飾代・告知宣伝費・運営費などがあります。リアルの場合、1ブース(3m×3m)の出展料は30~40万円が相場です。これは場所を確保する費用で、実際には机やボードなど上物と呼ばれる装飾代もかかります。また、出展していることを告知するはがきやホームページ制作などの告知宣伝費、リアルの場合には交通費や宿泊費、臨時スタッフの人件費などもあります。
オンラインの場合、出展料に20~40万円ほどかかりますが、装飾代はかかりません。告知宣伝費は各社の判断ですが、ある程度はかかるでしょう。展示物についても、リアルの場合はポスターやパンフレットなどの配布物を印刷しなくてはなりませんが、オンラインはデータ化だけで済みます。総じて、リアルよりもオンラインの方が安いと思います。
日刊工業新聞社のパッケージプランを利用したリアル展示会との比較
丸山:概算のイメージはつかめましたが、オンライン展示会の有効性に課題を感じる企業も多いと思います。どう判断すればよいでしょうか。
石川氏:有効性やどの展示会に参加すればよいのかというのは、その展示会がどういう実績を持っているかをチェックするのがよいと思います。数回開催していれば、展示会の報告書があります。それらを参考にしながら、何を誰に見せたいのかという目的を明確にしたうえで主催者に問い合わせれば、きちんとご案内があると思います。
オンライン展示会で潜在顧客をつかむポイント
丸山:伊東氏はこれまで中小企業やスタートアップの展示会支援を多くしていますが、展示会成功のポイントはどういったところにあると考えますか。
伊東氏:自社の強みをきちんと訴求することです。中小企業の場合、その会社のブースを目指してくる人はそう多くはありません。リアル展示会で、1ブースの基本パッケージで展示するとなれば、どうやって会場内を歩いている人の目にとめるか、立ち寄っていただいて話を聞いていただくかといった、小さなプロセスが重要になります。
リアル展示会で行った私たちの支援では、展示パネルの改善などがありました。製品紹介のパネルは、情報を入れ込むために小さな文字になりがちです。しかし、その方法では遠くから見ると模様にしか見えず、会場内を歩く人々の目にはとまりません。そこで私たちは「その企業は何か?」という答えを80~100ptという大きな文字サイズで表示させました。大きく書くとなると単語が凝縮されるため、企業の特徴が抽出されやすくなります。実際に「自社の特徴は何だろう」と考えることが、企業のブランディングにもつながったという声もありました。どのように際立たせれば、強みが相手に伝わるかを企業と話し合いながら支援しています。
丸山:自社のプロダクト、セールスの強みをどう表現するかが最も大事なことなのですね。そういった点では、リアルもオンラインも同じということでしょうか。
伊東氏:基本的には一緒ですね。
石川氏:むしろ、オンラインは大手と同じ土俵で戦えるチャンスなのではないでしょうか。リアルの展示会では費用に応じて見た目の差が出てしまいますが、オンラインは同じ画面内に大手も中小も入るので、商品の優位性を同じスタートラインでPRできます。そこをどう活かすかです。例えば、従来の堅苦しい展示会用動画を作るのではなく、Youtube動画のように見ていて面白いものを作る。そこにビジネスメッセージを織り込む工夫ができれば、これまでとは違うアプローチができるはずです。発信媒体もSNSを使えばコストをかけず気軽にできるので、他社の様子も参考にするとよいと思います。
丸山:これまでは出展側のお話でしたが、来場される側の潜在顧客は、オンライン展示会をどうとらえているのでしょうか。
石川氏:コロナ禍で、ネットのビジネス利用が増えていることは歴然としました。これが一過性のことなのかは判断が難しいところです。しかし、出張費をかけて展示会に赴かなくても、ネットで十分という考えに変わった方も非常に多いと感じています。当社の電子版に対する広告出稿の問い合わせは、以前から3割ほど増えました。電子版の購読も3~4月から増えている様子を見ると、ネットがツールとして利用されていることがわかります。したがって、出展者もそれなりの資料やデータをWebサイト上に用意しておく必要があります。コロナに関わらず、HPがあるのならSEO対策をしておくべきですし、こうした準備は会社の信用度や関心を引き上げるポイントになると思います。
丸山:顧客としてもオンラインで企業を見る動きは広がっているので、フォローもオンライン上でできるように整えておくことが必要なのですね。
伊東氏:今後を見据えると「元には戻らない」ことを前提に考える必要もあるのではないでしょうか。私は、すべてがリアルに戻るのではなく、オンラインの選択肢もあるという「先に進んだ形」で戻ると考えています。
支援してきたなかで感じていた課題の一つに「人員を割けない」という悩みがありました。「現場の手を空けられない」「社長を3日も出せない」などの声はよく聞きます。オンラインで時間や距離のギャップがなくなれば、この問題は解決されます。情報収集する側も代表社員が出張するのではなく、全員で関心のあるものを見るなど、オンラインを取り入れることで双方のギャップがなくなります。
この先、リアルとオンラインの両立が確立されれば、プライオリティの高い展示会はリアルで、すそ野を広げるにはオンラインなどと使い分けることもできるでしょう。
いずれにしても、オンラインという選択肢が増えたことで「まずは知ってもらう」という潜在顧客をつかむチャンスが広がったと思います。
オンライン化が進むBotBマーケティングの未来
丸山:ファーストコンタクトはオンライン。製品に触れる、商談を詰めるのはリアルで行う未来が見えてきましたね。
石川氏:幅広く情報を集めるのはネット、取引の決定はリアルでという流れは、従来とあまり変わりません。一方で、産業機械のように加工サンプルなどの仕上がりを見て触って体験できないと買えないもの、この「触れる」という差は、今後も消えないと思います。デジタル技術の進化で、リアルと仮想空間の差がもっと縮まれば、この状況すらも変わってくるのかもしれません。
近い未来は全体的にリアルに戻りつつ、リアルを補完する位置づけでオンライン展示会を同時開催するような、ハイブリッドの手法が大きな流れになると私は思います。オンラインの経験がない方でも、まずは行われているオンライン展示会を来場者目線で見て、自分たちが展示する際に必要なものなどを準備していくのがよいと思います。主催者が伴走したり、伊東さんのような支援機関からアドバイスをいただいたりもできるので、気兼ねなく相談いただければと思います。