新型コロナでインサイト激変 商品開発に求められる新たな価値と販路
2020年5月7日、新商品開発を数多く手掛ける山田啓博氏によるオンラインセミナーが開催されました。新型コロナウイルスの影響で業界を取り巻く環境が大きく変わる中、これまで通りのやり方では乗り越えられないと感じている方も多いのではないでしょうか。今回は最前線に立つプロダクトマネージャーから見た、ウィズコロナ、アフターコロナを見据えた商品開発についてお話しいただきました。
ゲスト
山田 啓博氏/株式会社PRODUCT OUT 代表取締役
広告プロデューサーとしてキャリアをスタートし、一流のクリエーターとともに大手企業のプロモーションを数多く手掛けてきた。広告のほか、ブランドの設立から生産、販売、運営までの幅広い経験があり、自身も今年の1月に起業。新商品開発パートナーとして活動している。
https://www.k-nic.jp/wp202410/supportor/1172/
モデレーター
丸山 大輔/K-NIC コミュニケーター
https://www.k-nic.jp/wp202410/supportor/111/
「急激な変化」が変えた 企業活動・コミュニケーション
山田さん:2020年2月から4月末まで、私のまわりで感じる変化は2つあります。
1つ目は、この経済状況の中で各社ともに企業を存続させる方向へ急激に向かっていったことです。様々な脅威が押し寄せる中、固定費や事業計画を短期間で見直す必要が出てきました。意思決定についても企業の存続を優先する比重が大きくなっています。
2つ目は、サプライチェーンの一部崩壊によって商品が届かないなど、オフラインの販売の様子が急激に変わったことです。変動費の見直しが不安定になり、急な変更を余儀なくされた場合もあるでしょう。営業活動においても新規・既存ともに一対一の営業が困難になり、オンラインへ移行しました。
丸山:この影響を受けて、ご自身の仕事のスタイルも変わりましたか?
山田さん:大きく変わりましたね。私の場合、コネクティングや人とのコミュニケーションが仕事における最重要なポイントです。飲みに行ったり、イベントに参加したりというこれまでのオフラインのコミュニケーションが、急にオンラインへ変わりました。当初はこのスイッチに対応できなかった企業もありましたが、今はだんだんと改善されてきています。
オンラインに切り替わったことで、コミュニケーションの仕方も考えさせられました。例えば、オンラインでは画面越しに細かな相手の反応を読み取りづらいですから、仕事の話やそうでない話も含めて、打ち解けた雑談のタイミングが難しい。「発言をする」こと自体の重要性も高まったと感じています。
事業へのインパクト インサイトの変化や情報過多によって行動抑制が起こる?
山田さん:商品開発においても大きく2つの影響がありました。
1つ目は、インサイト(無自覚の動機)を含めた欲求の変化です。
上図はマグロ―の5段階欲求の図です。ビフォーコロナ(2020年3月まで)は、社会・安全・生理的に満たされている状態で、さらに自己実現したい、承認欲求も満たしたいという思いもある状態でした。自由であったといえるかもしれません。
それがウィズコロナ(3月~6月)においては、自粛の影響で欲求を抑圧されている。これがほしい、あれが買いたいという前向きなニーズが多かったビフォーコロナと比べて、現在は欲求が大きく抑圧されています。これによって、顕在化されているニーズやインサイトが変わってきている。
アフターコロナ(6月以降を予想)では、この抑圧され変化した欲求が「非常にゆるやかに回復」していくと私は考えています。
2つ目は、オフラインとオンラインでの行動変化です。
ビフォーコロナでは、出勤や外出をする中で、さまざまな広告を目にし、いろいろな欲求が刺激されていました。広告を見て商品を購入したり、それを持参して友人とのコミュニケーションに活用したり。オフラインでの「コトの体験」に対する価値が非常に高かった。また、オンラインを活用しながら、オフラインで「コトの価値」を捉える傾向が強い世界でした。
これがウィズコロナとなると、オフラインでの経済活動はほぼ分断され、オンラインに移行しつつあります。この状況下でも、オンライン対応の準備をしていた企業は伸びています。共通しているのは「店があなたの家までやってくる」という点です。わかりやすいのは活発化しているテイクアウト事業。Amazonや楽天も含めて、店が家までくるという価値が再注目され、価値が高まっている。
そしてアフターコロナでは、ウィズコロナの間に人々が体験した新たな価値をさまざまな企業が拡大させていくでしょう。
アフターコロナの図にある、赤い大きな矢印に注目してください。これには「情報過多」の意味を込めました。テイクアウトに限らず、無料セミナーや無料トライアルなど、ウィズコロナという準備期間の後には、一気にこれらの情報発信がされると予想できます。
ではなぜ、さきほど「欲求は非常にゆるやかに回復」すると申し上げたのか。それは、情報過多になり、コミュニケーションが過熱しすぎた結果、「すぐに顧客がオフラインへ出ていく」のではなく、ゆるやかに行動すると捉えているからです。商品開発をするにあたって、今後は顧客の行動と行動に至る欲求の変化に注目するべきでしょう。
丸山:新型コロナウイルスによる影響の良い面を一言でいうと、どういった点でしょうか。
山田さん:オンラインでの情報と完結ですね。
今までは店が発信したものに対して来店してもらうという状況でした。今は顧客も情報を探している状態に対して、店が近寄ること(デリバリーなど)で距離が近くなっています。当たり前に使っているサービスではありますが、改めてその価値を感じますし、高まったと思います。
丸山:逆に悪い面はどうでしょう。
山田さん:オフラインにおけるコトの価値の変化です。モノの価値とコトの価値というものがありますが、コトの価値のバジェットが細くなったのではないかと捉えています。
キャンプを例にしましょう。今までのキャンプは自然の多い場所へ行って、自身でテントを設置し、家族や友人たちと楽しむものでしたが、今はグランピング※というものが出てきました。オンラインで「どのような価値を与えてくれるキャンプに私たちは行くのか」という情報を仕入れながら現地へ向かうことになります。そうなるとキャンプの中でも差別化が行われ、コトの価値がより尖っていくのではないかと考えています。
※グランピング…グラマラスとキャンプを合わせた言葉。自然の中にテント等を張って宿泊する点はキャンプと同様だが、あらかじめ設置されており、中はホテルの一室のように優雅な仕様になっている。
価値の変化を理解し、“誰が”その価値を伝えるかが重要になる
山田さん:商品開発にあたり、今後の顧客とのコミュニケーション作りも変えていかなくてはなりません。toB、toCに分けて考えてみましょう。
to B
toBのPUSH活動は「1対多数の雑談力」が必要になると思います。これまでは企業担当者に気に入られ、いかに会話をし、企業のニーズに答えるかが営業力として求められていましたが、これからは違ってくると思います。オンラインツールを活用する中で、「この人はどういう人なのか」というところも含めて発信していくことが求められるでしょう。
PULL活動では、顧客との対話能力が重要です。オンラインでの情報が増えていく中、商品の価値を顧客に伝えた時、顧客の何かしらの反応に対するアフターフォローとしてどのような会話をするかが大事になると考えています。
to C
toCのPUSH活動は上顧客であるユーチューバー、インスタグラマーなど伝道師(エバンジェリスト)を通して行うブランド発信が求められます。
PULL活動では、ライフスタイル価値提供が重要です。「理想の生活をするために、この商品はあなたに価値を生むものである」という発信が伝道師とともにとなえられ、情報を受け取った顧客は自分の生活にとっての価値を見出すようになっていくでしょう。
丸山:toCについて、これまでもマス広告では芸能人が伝道師的役割を果たしていたと思います。どうしてアフターコロナではこの傾向が強くなるのでしょうか。
山田さん:発信される情報が増え、受け取る情報も過多になっていく中で「誰が何をいうか」が非常に重要になってきているからです。これまで企業から顧客への一方通行だったものを、間に伝道師を通すことで「この人がいうのであれば!」という感覚を生む。そういった方向へ変わってきています。
丸山:ライフスタイル価値提供型と組み合わせると、その伝道師が何を考え、どういう生活をして、どのようなものを嗜好しているかなどの背景をすべてひっくるめて、その人物を使って発信していかないと顧客とのコミュニケーション作りがうまくいかないということなのですね。
山田さん:より効果的だと思います。この傾向は今後も加速してくでしょう。
プロダクトストーリーの変化
山田さん:いまだ予測不能ですが、6つのキーワードを意識されると良いと思います。
前述の通り、時間の使い方が変わるので、顧客に心理変化が起きます。人生における時間の使い方を見直しているかもしれません。付加価値が何かというのが、個々で変化しつつあると私は捉えています。
また、「⑤購入をする場のテンションとすぐ買うテンションがどこか」については、オフラインにおけるチャンスだと思っています。ディズニーランドへ行くと気持ちが高揚して買える値段のものならすぐ買ってしまうことってありませんか? この消費行動と心理が今後オンラインだけで完結できるかというと、それはできないと思います。こういった点も変わりつつあると思いますね。
丸山:ブランド商品を買った袋を持っていることがステータスで、優越感につながっているケースもありますよね。オフラインでの購入が減ると、そういった価値も見出しにくくなるのでしょうか。
山田さん:いずれそうなると思います。そのときに大事なのが、やはりブランドストーリーです。なぜ社会に存在しているのか。例えばスターバックスには「サードプレイス」というパーパス(社会的存在意義)があります。3つ目の居場所としての存在意義を社内外に発信することで仕事でもプライベートでも居心地良く利用できる空間が作られています。今後はオンラインだけで完結する場合もありますので、ブランドストーリーの発信が重要だと思います。
プロダクトデザインに込めるメッセージの変化とは
山田さん:新型コロナウイルスの影響で、時間の使い方に多様性のある社会に変わってきました。時間の使い方というのは、自分の大切にしている価値ともいえます。プロダクトデザインは、その価値の琴線に触れることを考えていかなくてはなりません。
そのうえで、メッセージに込める4つのキーワードを挙げました。これが順番につながっていくことが重要ではないかと思っています。特に「ファーストインパクトで記憶に残し、価値をわかりやすく伝える」という点は、オンラインで完結させることにおいては非常に重要でしょう。
新商品に関しては、オンラインとオフラインの両方で売れるものを発想してみてはいかがでしょうか。また、PR可能で、toC・toBにもアプローチできる技術を持った、ITやAIのプラットフォームを転用・応用するサービスというのも今後非常に重要です。小規模でもメッセージ性のある商品を自社の強みや技術を活かしてtoC向けに開発する。他企業はその動向を見ていますから、その技術で新たな商品が作られると企業間のエビデンスにつながり、それによって営業網も増えていくという方法です。
丸山:オンラインとオフラインの組み合わせでPR可能というのは大企業ならできるかもしれませんが、中小企業やベンチャー、スタートアップにできることなのでしょうか。
山田さん:PRの方法にはニュースリリースがあります。コストのかからない方法ですし、さまざまな企業が発信できるものなので、どのような方でも活用できると思います。
丸山:コストをかけずに、あとはそこにどのようなメッセージを込めるのか。そこに知恵を働かせれば、大企業でなくても十分戦えるということですね。
山田さん:そうですね。これがまさに、プロダクトストーリーといわれるところかもしれません。
丸山:改めて、プロダクトデザインをこの状況でどういう風に考えていけばよいか、山田さんのお考えを教えてください。
山田さん:これからはオンラインでの見え方、オフラインでの体験の仕方に分けて考え、発信する。すると、違う価値の見え方がされるのではないかと思っています。オフラインでだけでなく、オンラインも重視する必要がありますね。
丸山:それをスモールステップでもいいので、少しずつ試してみる。その反応をみてご自身の商品を考え直していく。その繰り返しですね。
山田さん:そうですね。セミナーでは大局的にお伝えしていますが、それぞれの企業の実態がありますから、ぜひ個別でもご相談ください。お待ちしております。