K-NICマガジン

新型コロナで何が変わる? 生き残るスタートアップ、伸びるスタートアップ

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2020年4月22日、専門的知見からベンチャービジネスのアドバイスを行っているK-NICスーパーバイザーの3名(岡島康憲、武田泉穂、尾崎典明)によるトークセッションが開催されました。各業界が新型コロナウイルスの影響を受けるなか、今スタートアップはどのような状況なのか、今後スタートアップはどういった立ち回りをするべきなのかについて、実例を取り上げながらお話ししました。

アフターコロナの世界でスタートアップが成功するには、「Nice to have」ではなく「Must have」のサービスを提供すること。そして、今を生き残るためには事業で本当に必要なものを見極め、不要不急の費用を削っていくことだといいます。
トークセッションは、3名の感じているスタートアップ業界の現状について語りつつ、随時オーディエンスからの質問にも答えていくスタイルで進行しました。

スピーカー

岡島 康憲
ハードウェア系のスタートアップ、アクセレーションプログラム、大学の創業支援プログラムなど幅広く支援している。自身もハードウェアの製造販売やプラットフォームを提供する会社を経営しており、経験を活かしたアドバイスが人気。
https://www.k-nic.jp/wp202410/supportor/47/

武田 泉穂
K-NICではバイオテックとヘルスケアのスタートアップ支援を担当。薬機法、臨床試験、市場創出、海外展開等を踏まえたヘルスケア産業の事業開発の実績を多数持つ。
https://www.k-nic.jp/wp202410/supportor/149/

尾崎 典明
さまざまなモノづくりの事業において支援経験豊富なアドバイザー。そのジャンルはカレーから宇宙まで(⁉)と幅広い。中小企業をメインに支援を行う頼れる二児の父。
https://www.k-nic.jp/wp202410/supportor/146/

スタートアップを取り巻く‟今“

武田:私が担当しているバイオテック企業などの視点から見ると、フェーズによって置かれている状況の違いが見受けられます。
新型コロナウイルスの影響で止まっているチームで影響が大きいと思われるのは、シリーズBやCという数十億の資金調達ができているチーム。臨床試験や研究開発を走らせている場合、試験を止めている状況です。ただ、それは「開発時期が延びただけ」であって、伸びた期間をいかに生き残るかが重要なポイントです。計画には期間とゴールが設定されていますが、この状況がいつまで続くかによってゴールが見えなくなるケースもあり、経営者は雇用や開発資金のやりくりを何とかしなければならないという課題に直面しています。

一方で、こういってしまうと怒られてしまうかもしれませんが、シードラウンドの方たちは壊滅的な影響は少ないと思います。むしろ、コロナの状況を見て、今まさにこの状況に対応できる開発に舵を切っているチームも見えてきました。
AMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)が新型コロナウイルスの対策用に複数のタイプの公募を開始しています。既存技術の応用でアプライできるか検討できるので、アカデミアやスタートアップなども可能性があると考えます。

岡島:Web系やハードウェア系も同じ状況だと思います。
アーリーステージのチームにとっては、これを機にピボット(別のアイデアに取り組む)とかターゲットを変えていくチャレンジをしています。ただ、日々お金は出て行っているので、そのやりくりは厳しいでしょう。

その少し後の、プロダクトができていてマーケットに広く浸透させていこうとしているチームは、BizDev(事業開発)をやろうにも自由に動けない状況です。スピードを出して売り切って浸透させるというのがスタートアップのポイントですが、それを上手く活かしきれていないということが起きていて、やはり資金繰りについて悩まれている方が多いです。

この状況下で、シードステージのチームと少し先に進んでいるチーム、それぞれの課題に差があるのが見えてきましたね。資金調達において、今スタートアップが取るべき戦略や使える制度、尾崎さんの知っている実際の事例などがあればお聞きしたいのですが。

尾崎:資金調達に係る動きは少し鈍化している認識はあります。
ただ、新型コロナウイルスがあろうがなかろうが、K-NICで支援しているようなシードステージのテック系スタートアップや大学発ベンチャー、ディープテック領域の方たちは、そもそも資金調達が大変です。それを考えると、従業員を雇っているとか事務所を借りているというようなことではない限り、やや悪いくらいでこれまでとさほど変わらないと思います。もちろん開発の手は止まりますし、想定顧客との間で仮説検証が滞ってしまうので、計画には遅れが発生します。しかし、バーンレートが低く身軽なところは、環境として支援策が多分にでていることもあり、これまでとあまり変わらないと感じています。

また、投資側としては全投資額の1/3程度とCVCがかなり多くなっていますが、今後は独立系VCとは異なった動きになってきています。というのも、CVCは本業である事業の先行きが不透明であるときに、積極的に投資に動けないことが多い。とあるCVCの方からは、CVC・VC業界も二極化するだろうという声を聞きました。ここをチャンスと思って頑張る人もいれば、控えましょうという人もいるということです。リーマンショックで沈んだときも、投資を差し控えたVCもいれば、良い案件についてはバリュエーションの低い状態で積極的に投資できたVCもいました。それらはプレミア化していきました。

そういった流れを見ているVCに関しては、2020年というのは昨今高止まりしていたバリュエーションがいったん落ち着いて、投資しやすい状況にあります。これは数年経たないとわかりませんが、2020年あたりに良いかたちで投資できたVCは大きな成果を得ることができると思います。

アフターコロナに伸びそうな業界、企業

岡島:視聴者の方から新型コロナウイルスを糧にして前向きに進んでいる領域や業種を知りたいという質問がきていますが、いかがでしょう。

尾崎:一般的にはロジスティックにかかるところは必要性が増してきていると思います。
意外なのは、広告関係。在宅勤務の影響で、ネット広告やテレビに触れやすくなっているようです。EC関係も、リアル店舗が厳しい状況なので、D2C等は頑張っているイメージがあります。僕が支援しているところでは、自律搬送機等、広い意味でロジスティックを下支えするようなところは目下資金調達に走っていますが、厳しいとはいえ、VCが振り向きもしないかというとそんなことはありません。しっかり話を聞くよといってくれるし、頑張っています。

あとは、VR関係です。家でもコンテンツ視聴やゲームはヘッドセットがあればできますし、販売台数もしっかり伸びているという状況ですから、XR分野に差し込んでいるベンチャーもコンソールが普及していき、プラットフォーム化することで苦しい中にも追い風が吹いているという感じがしますね。

岡島:武田さんが主戦場にしている領域で、こういう傾向があるという話はありますか?

武田:遠隔医療が注目領域です。
日本は、歴史的な背景より医療費がかさんでいるという課題があります。新型コロナウイルスの影響で、慣習的で不必要な医療コストを一部省き、スリム化できた領域があります。政府と厚生労働省が遠隔診療を推進し、規制もこれまでにないスピードで変わってきている様子がうかがえます。遠隔診療に携わっているスタートアップは多く、これまでは規制を乗り越えるハードルが高かったですが、これからは風向きが変わっていくと思います。

岡島:伸びている領域と考えると、多くの人にとっては在宅の仕事であったり、こういったオンラインのイベントであったり、今まさに新しい手法・方法に取り組んでいる人がたくさんいる。そこに付随するかたちで、新しい商材やサービスが生まれる可能性はかなりあります。

僕自身、オンライン用の良い機材を買おうと思っているのですが、そういったハードウェアを使うことなく、Webベースとかソフトウェアだけで解決できるならいいなって。

武田:最近は映るだけで、メイクをしてくれるアプリとかもありますよね。

岡島:自分も良い顔色で映りたい(笑)。
そういう新しい文化が生まれているタイミングだからこそ、その文化の中でちゃんと評価される顧客を開拓できる、そういった領域もこれから新しく出てくるのかなと感じますね。

今、スタートアップするべき?

岡島:別の質問をいただきました。今まさにスタートアップしようとしている人は、ここは様子見か。どうでしょう、尾崎さん。

尾崎:リソースをあまり取らないもの、例えばIT系のスタートアップとかはガンガンやってしまえばいいと思いますね。事業内容とステージにもよりますが。
また、勤めていてモヤモヤしている方で、ネタとマインドがある場合など、身軽になってローコストオペレーションで回していけるのであれば、逆に動き出すタイミングかもしれないですね。

岡島:個人的には、モヤモヤのレベルにもよりますが、スタートアップを考えていらっしゃる方たちの中には新型コロナウイルスと関係なく、プロダクトのアイデアが未熟だとか、ターゲットを練り切れていない方が一定数います。そうした方はまだ会社をやめない方がいいかもしれないと考えています。今もし迷いがあるのであれば「自分たちのプロダクトがきちんと顧客の課題を解決できて、お金をもらうに値するものなのか」を顧客の観察やヒアリングを重ねて解像度を上げていく。それが今やるべきことなのかなと。これはコロナがあろうとなかろうと、起業した瞬間に即死みたいな感じになるだけだと思います。

武田さんのまわりでは、研究室を抜けるか、居ながらに起業するかなどのパターンがあると思いますが、そういう方から見るとどうなのでしょう?

武田:シードラウンドはそんなに影響はないかと思います。
この時期に起業しようという方は、十分な計画を立てていたと思います。それをやめなくてはならないかといえばそうではなくて「この時期に起業する!」と思っていたのなら、計画通りやるべきでしょう。逆に計画が不十分であれば、いつ起業してもうまくいかないかもしれません。

大学発ベンチャーも同じだと思います。今まで文部科学省から予算を取っていたのをこれからは経済産業省から取りましょうとか、AMEDから取りましょうと変わるフェーズです。だからといって、大学発ベンチャーに何か影響があるかというと、特に助成金が止まっているようなことはないです。ですから、今やめるのではなくて、今まさに起業したいと思って計画を立てていた人たちは、もう前に進んだ方がいいと思います。

アフターコロナを生き延びるには

岡島:VCの立ち回りを見ていると「これがあるとベターだよね」というプロダクトへの出資は、どんどん絞られていくという肌感があります。むしろ、新型コロナウイルスが関係してようがしていまいが「これは今の世の中に絶対に必要な製品である」というプロダクトには、引き続きお金が集まっていくのかなと。どう思いますか?

尾崎:研ぎ澄ませという話ですよね。「Nice to have」は駆逐されていきます。今回のようなことが起こるとより際立ちました。なくてもいい、不要不急なサービスは使わなくなってしまうからです。だから、スタートアップの中で「Nice to have」なものはピボットせざるを得ないし、真摯にだれかのペインに刺していかないといけない。VCもそれをコロナ云々によらずもとより当然意識しています。
とにかく、僕のメッセージとしては生き延びてもらいたい。そのためには、金策をしっかり取り組んでもらいたいし、VCもCVCも門戸を広げています。政府もいろいろなベンチャーで使える融資制度や補助金を出しています。K-NICその他、支援機関に相談してもらってもいい。とにかく生き延びてもらいたいというのが今の願いです。

そのために何をすべきかといえば、背伸びする必要がないところは背伸びしないこと。自分たちをシュリンクさせることです。固定費は経営に直結するので、人材も含めて固定費をしっかり見直してみてほしい。それができると、バーンレートも下がり生き延びることもできるし、VCもお金を出しやすくなります。

「不要不急」と最近は言うようになりましたが、自分たちの事業で本当に残さなきゃいけないものを見極めて、背伸びしているところは削ってでも生き延びるという算段を皆さんにはやっていただきたいと思います。そのための相談ならK-NICはいつでもウェルカムです。我々スーパーバイザーの3人にぜひ相談してみてください。